「おまえのせいたんをしゅくふくしよう」

生まれて初めて聞いた声は、そんな事を言っていた気がする。祝詞は空虚な世界に響き渡り、自分の体を隅々まで埋め尽くし、染め上げた。その人の黒い髪が視界に入る。軽く手を触れると、その人は微笑んだようだった。きっちりとした詰襟の、葡萄色に近い衣装。その向こう側には高価そうな花瓶。そこに生けられた花は、死ぬ寸前のように頭をたれている。その人は言う。

「うまれてくれてありがとう」

素直な言葉は素直に嬉しく、自分は微笑を浮かべ、瞬間――花瓶の花が、咲き誇った。
花も喜んでくれているのだろう。自分はただ単純に、そんな事を思ったのだ。



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