「奇跡の子がいるらしいんだよ!」 高らかに、堂々と、アメリカは宣言した。 まあいつもの事なのだが、いつもどおり厄介な態度である。 「それ何の話?」 「例の屋敷の話さ!」 「ああ、イギリスの再就職先やね」 スペインはのんびりとした口調でそう返す。 街角、雑踏から少しだけ離れた地点での雑談。 「アメリカ……もう止めてあげなよ……」 イギリスの仕事は所謂ガードマンだし、アメリカの仕事は盗賊(本人曰く怪盗)である。 毎度毎度、就職する度にアメリカに盗みに入られて、職を失うイギリスが不憫でならなかった。 「そう思うなら君が俺を捕まえればいいだろ、カナダ。一応役人なんだからさ!」 「どうせ捕まえても証拠不十分だよ……それに、捕まえても逃げるだろ、君は。そしたら君からは殴られるし他の人からも殴られるしで踏んだり蹴ったりじゃないか」 「そやねえ。カナダは取り締まり緩いからいい奴やわあ」 「ははっ! カナダ、不良にいい奴っていわれる役人は役人として失格だぞ!」 「……親戚に盗賊がいる時点で既に失格だからいいんだよ」 アメリカの盗みがやたら上手い事だけがこの場合救いである。 ……いや、それもどうなのかとは思うけれど。 所詮自分はこの小さな町の小役人――というより町の小間使いみたいなものである。 活気溢れる市場を見つめながら、溜息。 別に嫌なわけではないのだが、一体何処を駆けずり回っているのか、盗賊などというふざけた職業についている親戚が、少し眩しい時もある。 素直にそう伝えると、不良と盗賊は顔を見合わせて笑った。 「カナダらしいやん」 「眩しいのは当たり前だぞカナダ。俺はスターだからな!」 「この前はヒーローだといってたじゃないか」 「ヒーローでスターなんだ! 大体カナダ、役人なんてお人よしか馬鹿か自信過剰がなるものだぞ? 国家役人ならまだしも、こんな田舎の小役人じゃあな!」 「う、うるさいな……別にいいじゃないか。誰かがやらないといけない仕事だろ」 「偉いなあカナダは。誰かがやらんといけへんのやったら誰かに押し付けるわ、俺なら」 「俺もそうだな。だって役人なんて結局何したって下の連中からぶーぶーと文句を言われるんだぞ? 成功してもそれがお前の役目だろうってそれだけじゃないか。不満の対象になる事が第一の仕事だなんて俺には耐えられないね!」 「……まあ、君ならそうだろうけど。でも、そんなにずばずばいうなよ……」 アメリカの手際ぶりは一種の物語性を持って語られる。まるで御伽噺、それは憧憬の対象として。 やっている事はただの窃盗だというのに。 「それは確かに羨ましいわ。俺なんかその辺で果物盗んだら殺されかけたで?」 「盗まないでくださいよ。お腹すいたら僕の家で何か出しますから……あ、そういえばスペインさん」 「何?」 「ロマーノ君は?」 いつも……というわけではないが、スペインと共にいる少年を見なかった。 スペインの笑顔が一気に暗くなり、両手で顔が隠される。 「……家出した……」 「ははは! またかいスペイン!」 「アメリカ! 笑っちゃ駄目だよ……スペインさん、探さなくてもいいんですか……?」 「探さんでも大丈夫やと思うわ……この町から出るの、許可がいるやろ」 「いらないぞ?」 「それは君だけだよ! で、でも何か悪い人に絡まれたり……」 「あーちゃうねん。行き先は多分わかっとるっていうか……」 煮え切らない態度で、スペインはにへら、と笑った。 |