「………………」
「……覚悟はいいんだろうな」

町の外れ――町の境界ぎりぎりに、存在する建物がある。
その、少々変わったデティールの――古臭い、しかしそこが味のある建物に足を向けた。
入って行き成り、塩をぶつけられた。

「神聖な場所だから……入って来たら駄目……」
「お前さん神聖な場所で飯食って寝てるじゃねえか!」
「臭いが、映る」
「失礼極りねえなあ畜生! やっぱ喧嘩売って――」

「静かになさい、形式上とはいえ神前ですよ」


大体この荘厳なる空間をして何の感慨も抱かないのですかこのお馬鹿――と中にいたらしい人形作家は溜息を吐いた。


「オーストリアのあんちゃんじゃねえか。人形作家様がこんな生臭神官の所で何やってんだよ――」
「生臭神官じゃない。それに、インチキ占い師に言われたくない……」
「誰がインチキだぁ?」
「いいから静かになさい――」

オーストリアはまた溜息を吐く。

「お前さん、何しにこんな所来てんだ? ハンガリーの嬢ちゃんは?」
「ハンガリーはイタリアのお見舞いですよ。私がここに来たのは、仕事の話をする為です」
「仕事って――お前さん、人形の」
「そうですよ」
「って事は――」


ギリシャに視線を向ける。
露骨に顔を背けられた。
殴りかかろうかと思ったが、話が進まないので自粛する。


「――俺が頼んだ」
「……お前さん、人形って柄か」
「人形、っていうか……ご神体」


嫌味でも何でもなく、首を傾げる。
ご神体とはその辺で作っていい物だったろうか。
確か、ご神体というのは神様の代わり――ではなかったか?
有難みも糞もなかった。

直接そう伝えた。


「違う……ご神体は、神の拠り代だから……基本的には、何でもいいし……何ていうか……」


ここの神は、実在するから……とか何とか、よくわからない事をギリシャは呟く。


「一々……預言するのに、手紙出すのも面倒だから……」
「いや神との連絡手段手紙な神官って……何だぁそりゃ」
「情緒も何もありませんね」
「だから……ご神体……」


それで何故ご神体に繋がるのかさっぱりである。


「ご神体と言っても、私は人形を作るだけなのですが……それでいいのですか?」
「あ、今……写真、送ってもらってるから、それで」
「写真とは誰のです?」
「……神様?」
「何で疑問系なんだよ」
「トルコうるさい」
「あぁ!?」



だから喧嘩するんじゃありません、このお馬鹿――とオーストリアの声。
自分が、何故ここに来たのか――占いの凶兆で不安になったのが原因なのだが――それをすっかり忘れるような、いつもどおりの、空間だった。

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