「きゃー! イタちゃんどうしたの!?」
「あ、ハンガリーさん」

ハンガリーは、恐怖でも驚愕でもない、どちらかといえば歓喜に近いような叫び声をあげた。
何故、自分がベッドに縛り付けられているこの状況でそんな声を出すのかはよくわからない。


「抜け出したらドイツに捕まっちゃったー」
「そう……」
「ハン、ガリー、さん?」


うっとりしたような表情が怖い。
名前を呼ぶと、ハンガリーはようやく元に戻った。


「あ、ごめんねイタちゃん!」
「別にいいよー。今日、オーストリアさんは?」
「人形作り終わって――確か、注文取りに行ったと思うわ」
「そっかー」


オーストリアは人形作家である。特に有名という訳ではないのだが、コアな人気を誇っている人形作家。
有名にならないのは、何分製作に時間がかかりすぎて(何年もかかる事もある)そんなに多くの需要に答えられないから。それでもその筋の人間に打てば響くだろう人気があるのは、その人形がとても精巧だからなのだった。


あれは人間だ、と誰かが言っていた。
人間のようだ――ではなく、人間そのものだと。

命が宿っているようだ、というより、命さえあれば人間になりうるそれ。


「昨日何か一日中篭ってたのよ。無理しなきゃいいんだけどね」
「オーストリアさん、仕事細かいもんねー」
「イタちゃんも無理しちゃ駄目よ?」
「俺は無理しないよ?」


出来ないよ、と自分は笑う。
ざわりざわりと、同意するように胸が騒いだ。
蝕むような痛みが、心臓からする。



この病の名前を、自分は知らない。



「治し方、わからないしねー。それこそ奇跡でも起こらない限り」


ただ、死なないギリギリまで――持ちこたえる術はある。
だから自分は、こうしてドイツについてきているのだ。
いや――ドイツが、ついてきてくれているのか。



「……起こしちゃ、駄目なのかな」


奇跡、とハンガリーは外を見るような仕草で呟く。
何を言いたいのかは、わかっているつもりだった。


「駄目だよー、ハンガリーさん」


俺はこうなるのが自然何だから、と。
不自然は起こさせてはいけない。
それは、友達が――日本が悲しむ事に、繋がるから。


「ちょっとぐらいズルしたっていいじゃない」


ハンガリーはむくれるように言う。
この辺りは冗談だろう――顔が笑っていた。



「オーストリアさん、今度はどんな仕事なの?」
「え? ああ、今はね――」



ずれた話題に上手に乗って――ハンガリーは楽しそうに語り始めた。
こういうのは、とても楽しい。

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