「やあ! こんにちは!」


満面の笑み、爽やかな声、元気な動作。
盗賊には不釣合いに、しかし怪盗には相応しく、アメリカは挨拶する。


「……こんにちは」


にこりともせず、冷静な声、呑気な動作。
状況には不釣合いに、しかし性質には相応しく、日本は挨拶を返した。

「さあ、」

君の奇跡を見せてくれ、と高らかに。


「……芝居がかった方ですね」
「ああ。俺はヒーローだからな!」
「ほう。ではここは悪魔の城ですか。私を倒しにきましたか?」
「君はラスボスって柄じゃあないな。精々が囚われの姫ってところだろう!」
「随分な物言いですね」
「不満かい? 奇跡の子」
「いえ、特には。侵入者さん」

和やかでいて殺伐としている。
しかしそんな空気に影響されるほど、アメリカは優しくはないのだった。
気づいてはいるけれど。
気になど、しない。

「ご用件はそれだけですか?」
「――ああ、後」
「後?」


「俺と遊ぼう」


目の前の男は、一瞬きょとんとしてから、また無表情に戻り。
その無表情こそ笑顔の代わりなのだろうか、とぼんやりと思う。

それは話を聞いたから。
笑えないという話を、聞いたから。

日本は何と言う事もなさそうに、こちらの申し出を許容した。


「いいですよ。では行きましょうか」
「ふうん? 普通に言うんだな」
「別に軟禁されている訳ではないですからね」
「なら何故いつも家にいるんだい?」



「この世は、中々、面白いから」



それだけですよ、と言うのは楽しい事など何もなさそうな仏頂面。


「ははははははっ」


だから代わりに笑って、自分はひらりとその窓から飛び降りる。
少々お待ちください、という声がして――




しばらく。





「……! てめえアメリカああ!」
「ん? なんだか下品な声がすると思ったらイギリスじゃないか」
「イギリスさん落ち着いてください。どうしたんですか?」
「こんの野郎……! どの面下げて来やがった!」
「君に会いに来た訳じゃないぞ! 俺は日本と遊びに来たんだ!」
「何!?」


小うるさい知人は、焦ったように日本を見る。
日本は、にこりともせずうなずいた。


「ええ。お友達ですから。ねえアメリカ君」
「ああ!」

何々だよ、と頭をかかえるイギリスを見て、自分達はまるで笑いあうかのように顔を見合わせた。


実際に、その顔に笑みが浮かぶ事は、なかったのだけれど。

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