「ドイツー? 難しい顔してどうしたの?」
「……いや、何でもない。それより、体調は大丈夫か」

大丈夫だよ、と目の前の男は無邪気にそう言った。
顔色はいい。その言葉に嘘はなさそうだった。

何より――においがしない。
死のにおいが、しない。

職業柄、嗅ぎなれた――甘ったるくも鬱陶しい、香り。


「ドイツドイツー」
「何だ?」
「やっぱり何かあったんじゃないの?」
「…………」

この男は、勘が鈍いのか鋭いのか。
手に負えないと思いながら、軽く微笑んだ。

どうせ、言う訳にはいかない事なのだ。
間違いなく当たる筈の、この胸騒ぎの事など。


「……お前の兄にあった」
「え? 兄ちゃんと?」
「ああ。この屋敷の前にまで来ていたぞ」
「へえ。どうしたのかなあ?」
「お前に会いに来たんじゃないのか?」
「それはないと思うなあー」

兄ちゃん俺の事嫌いだし、とイタリアは首を傾げる。

「仲が悪いのか」
「んー? 俺は兄ちゃん好きだよー」

そんな感じ、と言って笑うイタリア。

刹那、くっと死が香ってくる。


「……イタリア、薬を……って寝るな! お前さっきまで起きていただろう!」
「たいちょー……パスタが食べたいでありますー……」
「寝言か!? 起きてるのか!? どっちにしろ起きろ!」


「お邪魔するよ」


かつ、と扉が開く。
そちらに目をやったドイツは――僅か、旋律した。

「やあ、ドイツ君久しぶり」
「……ロシアか」

何のようだ、という顔は少し青ざめているようでもある。

「特に用なんてないよ。悪趣味な事してるなあって見に来ただけ」
「何が――悪趣味だ」
「悪趣味だよ。何のつもりなのかな? 哂ってるの?」

彼らの事、と笑顔のまま、ロシア。

「違う」
「うん知ってるよ。言っただけさ」

そこでロシアは、二人の会話に首をかしげていたイタリアに目をやった。

「君がイタリア君か」



かみさまにあいされてるんだね――


純朴そうな笑顔で言ったロシアの真意は、イタリアにはわからない。

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