「何度でも言う。あの野郎とは付き合うな。会うな。二度と会うな」

眉を怒らせ、瞳を閉じて、腕を組み、仁王立ちで――全身から怒りを体言している。
雇われてこの方、自分に対しては割合紳士的に接してきてくれたイギリスが、こんなに怒っているのを見るのは初めてだった。

しかし理由が不明である。

正体不明の侵入者と、仲良く歓談した挙句、外にまで連れ立って出かけていた事を怒っているのだろうが。
警備を仕事としている彼からすれば、警備対象のうちに入る人間がうろつくのは好ましい事ではないのだろうが、それにしても怒り方が激しすぎる。
どうやら昨日のーーアメリカと言ったか――彼とは知り合いのようなのだが。
そもそも初対面だったのだが、何だかどこかで見た事のある顔だった、と今更回想する。


「……大体、どういう方なんでしょう、アメリカさんは」
「……盗賊ですよ」

カナダがいかにも嫌々という感じで呟いた。
彼とは基より友人同士で、今は恒例の――カナダの仕事の休憩時間に催される――お茶の時間である。
イギリスが来てからお茶のバリエーション増えたのはありがたい事だった。

しかしまあ、その本人はこれまでに無いぐらい気難しい顔をしているのだが。
カナダの顔を見つめると、何だか妙な表情で首を傾けている。


と、そこでようやく。

そうだ、性格やら雰囲気やらがまるで違ったから気づかなかったが――


「……似てます――よね」

初めてあった気がしないはずである。
雰囲気は両極端だが、顔のパーツがそっくりなのだった。
綺麗な金髪を軽くかいてからカナダは言う。

「小さい頃はもっと双子みたいでしたよ……」
「……ご親戚ですか?」
困ったように苦笑しながら――しかもかなり引きつった――カナダは首肯した。


「従兄弟です」
「はあ、通りで――」

と、返事をしつつ、考える。
確かイギリスも、カナダの従兄弟なのだという紹介があったのだ。
時々妙に自分に素直な事を口走る(「お前の為にやってるんじゃない!」「仕事だから仕方ないんだ!」)この男と、短い期間で割合仲良くなれたのは、カナダのお陰とも言える。
そう思いながらイギリスを見ると、先ほどより強く目を閉じていた。
眉間の皺が刻み込まれたように深くなっている。
カナダはそんなイギリスに気兼ねするような視線を向けてから、こっそりと耳打ちしてくれる。


「……兄弟なんですよ、二人」
「俺に弟はいない!」

突然の宣言にびくっ、となりつつも「……聞いてたんですか」と溜息交じりに返す姿には、
なんというか、年季が入っていた。
いつもの光景――という奴なのかもしれない。


「どうしてそんなに嫌いなんです?」
「…………」

黙秘権を行使された。
イギリスは自分でついだ美味しい紅茶を、ぐいっと飲み干す。

自分は溜息を吐いた。


「まあ別に構いませんけど――」

自分が口出しするような事でもないのだろう、多分。
しかし、まあ。

「兄弟も悪いものじゃないんですがねえ……」


独り言のように呟いた台詞に、「わかってるよ!」と小声で返事が返ってきた。

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