「本当――勘弁してほしいしー」

飄々とした顔で、しかし心底嫌そうに口を尖らせて、ポーランドは呟いた。
神らしからぬその容姿、しかし彼はまぎれも無く神ではある。
きっとポーランド自体は気づいていないが、共にいるのが少し辛いのだ。

何かに当てられているような気がする。
日々神殿で過ごす自分でもそうなのだから、きっと普通の人間はもっと酷いのだろう。


それほどに――神と人は、相容れない。

一部の例外はいるが――と何人かの友人達の顔を思い浮かべた。
考えているその間自分は黙ったままだったので、場が持たなかったのだろう、リトアニアが話し始める。
彼もまた、神では無いものの――人間とは相容れない存在だった。
人の良さそうな表情に、苦痛のようなものが垣間見える。

「ポーランドは、人間の事には、根本的な事にしか関与できません――」
「ああ」
「だから彼は、これから怒る一連の出来事に――手出しは出来ません」
「わかってる……」
「新しい命を生み出すには最早時間が足りませんし――」
「……大丈夫」

人間だけで何とかしてみせる。
そう呟くと、リトアニアは静かに、「幸運を祈ります」と言った。
その姿は妙に様になっていて、彼は神官向きかも知れない、と思った。


「でもあいつ、俺らの事巻き込む気満々やしー……」

ポーランドの顔がひきつっていた。
わが道を行くこの神様にしては、珍しい表情である。

「巻き込める?」
「巻き込む気――みたいですね。俺はポーランドと違って、直接的な縛りはありませんから、人間に関与できますし。それに――」

それに、彼は。

「――ロシアさんは、完全に人という訳ではありませんから」

神と人とのどちらとも関われる、例外。
境界線に立つ者――アイデンティティを揺らす者。
そんな存在は、実はかなりの数、いる。
しかしそんな事に気づくかどうかは、また別の話だった。

そしてこの話も、大抵の場合と同じように――気づかなければ何も起こらないのである。


気づかなければ平和で。
気づかれなければ安穏で。
知らなければ幸福で。
知られなければ、しあわせ。


「見守ってて……」

それが神、という存在の意義なのだから。
生を司る神たる――彼の存在を定義づける行為。
例えば死を司る神が、行動を起こす事で逃れえぬ艱難を得るように、彼は行動を起こせない事で逃れえぬ辛苦を負うのである。

それはまるで嫌がらせのように。
全知全能の彼らの、唯一の代償のように。

その代償を払わないで入れる人間は、きっと、もっと、自由で。
自由だからこそ、庇護を受けないからこそ、酷く弱い。

だけれど――神は見守るから。


「まあ精精頑張りー」
「頑張ってくださいね」


無力感に耐えつつ、吐き気を催しながらも、全ての悲劇を、見つめるから。
それでいいのだと、それだけでいいのだと、彼らは多分、知らない。

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