日本は、ゆっくりと、言外に意味を込めて、溜息を、吐いた。
もっとも、対日本で空気を標準装備しない韓国にとっては、そんな物はあっても無くても同じだったが。

彼は無邪気に笑いながら、次から次へと花を出している。
一体何処からかはわからないが、韓国が指を鳴らしたり袖を振ったりする度に、現れる花。

現れはするが消える事はないらしく、上半身だけ起こしている日本は、半分ほど花に埋もれてた。


「韓国さん」
「凄いんだぜ! 奇跡何だぜ!」
「わかりました。凄いです凄いです。凄いんですが、そろそろ止めてくださらないと大変掃除が面倒です」
「花なら、ちゃんと後で消せるんだぜ!」
「そうなんですか? 凄いですね。そんな奇術まで使えるなんて」
「奇術じゃないんだぜ! 奇跡何だぜ!」
「では消してみてください」
「これから練習するから今は無理何だぜ!」
「…………」

言っている間にも、どんどん花は現れていく。

韓国は、その手の事をやって生計を立てているのだ。
簡単に言えば手品なのかも知れないが、彼は他に何でもやる。
踊るし、歌うし、手品もするし、兎角芸と呼べる物は何だって。
彼のような人間を何と呼べばいいのかわからないので、便宜上、芸者だと呼んでいるのだが。

存外人見知りの激しいこの少年のような男は、よく日本に芸を見せてくれた。
彼曰く、日本の起源は自分だから、自分も奇跡を起こせる、らしい。

確かに彼の手品などは奇跡としか思えない出来ではあったが、それでも、自分の奇跡とは種類が違うだろうと日本は思う。

彼の奇跡は人為的だ。人為的だからこそ、酷く優しい。
自分の奇跡は神の気紛れだろう。神は万能だが、優しさを知るまい。

会った事はないから断定は出来ないが、と予防線を引きながら思考する。


「韓国さん。いい加減にしないと花に殺されます」
「その時は俺が生き返らせるんだぜ!」
「無理に決まってるでしょう。いいから止めて下さい」
「じゃあ日本が笑うんならいいんだぜ!」
「笑いませんよ、冗談じゃありません」
「日本はケチなんだぜ! 日本の起源は俺何だから、従うべき何だぜ!」
「私の起源は貴方じゃありませんし、例え貴方でも従う必要はないです」
「今日本が起源を認めたんだぜ!」
「認めてませんったら。聞いてくださいよ、話」
「あーあー聞こえないんだぜ!」
「子供ですか貴方は……」


日本が笑わないのはずるいんだぜ、と韓国は唇を尖らせる。

「奇跡なんてどうって事ないんだぜ! 俺も出来るんだぜ!」
「確かにそうですけど。これは私なりの、けじめって奴ですよ」

自分の奇跡、と呼ばれる所業について。
それをおおっぴらにしなかった兄、中国には感謝している。
全く気にしない韓国は時に疎ましいが、それに自分が救われていることはわかっている。


「日本は馬鹿なんだぜー」
「……失礼な方ですね」

何処まで出来る物なのか、この力は。
最後まで確かめたくないのが本音である。
しかも、何が起こるのかはこちらにもわからない。
どうやら自分の意思に多かれ少なかれ影響を受けるようなのだが、よくわからない。

「……パルプンテみたいなものですかね」
「ぱる? 何何だぜ?」
「私にもわかりません……今突然頭に浮びました」


いいから片付けてくださいよ、と日本は溜息をつき、韓国は笑顔で交わした。
平和と言って差し支えない日常は、少しずつずれていく。



ゆっくりと、音も無く。

奇跡の子を中心に廻る物語は、幕を開ける。

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