このまま倒れこんでいたい、とそんな事を思った。 先刻、とある人物というか神仏というかの所に駆けていき。 大方戻ってきたところで、呼び戻しの音が鳴り響く。 リトアニアはいい人なのだが、如何せん少し鈍いところがある。 「お前の距離感と人間の距離感一緒にするなーっ!」 叫んでみたものの、喉が渇いただけだった。 立ち上がらなければならない、仕事以前にこんな所で倒れていたら本当に死ぬ。 「そうですよ……私は飛脚、私は飛脚……飛ぶ脚と書いて飛脚……!」 自己暗示をかけようと思ったが、どうにもうまく行かない。 途中から「うふふふ私は飛べる私は飛べる」という怪しい暗示になってきたのでやめた。 「あの……大丈夫ですか?」 「ほえ?」 太陽が陰になって気持ちいいと思っていたら、どうやら人が覗き込んでいたようである。 「あ、あんまり大丈夫じゃないですので、よろしかったら水を……」 「ああ、なら丁度良かったです! 僕は酒屋ですから!」 「今アルコール入れたら死にますよ!?」 「ああ、ちゃんと普通のも持ちあるいてるから大丈夫ですよー」 覗き込んできた酒屋は、フィンランドと名乗った。 彼は無邪気そうな笑顔で、後ろを振り向く。 「こっちはスーさんです」 「ん」 「うわっ」 ずっと黙りこんでいて気付かなかった人影が、視界に入る。 倒れたままと言うのもあれなので、一応体を起こし、座り込んだ。 「ん。呑め」 目付きの悪い眼鏡の男の人――スウェーデンというらしい――は、水を差し出してくる。 不思議な容器だ、と思いながらお礼を言って口をつけた。 「ぷはーっ!」 水ってこんなにおいしかったっけ、というぐらい、おいしかった。 容器を返しながら、言う。 「生き返りました! ありがとうございます!」 「いえいえ。いいんですよー。僕は酒屋ですから!」 皆さんのそういう顔がみたくってやってるんです、とフィンランドは笑う。 先刻から、僕は、という物言いが少し気になったので「スウェーデンさんは?」と聞いてみた。 「スーさんは歌歌さんなんですよ!」 「うた……うたい?」 こんなに無口なのに、と思ったが口には出さなかった。 「じゃあ、大丈夫そうですから、僕達もう行きますね、セーシェルさん!」 「ん。じゃな」 「あ、はい! 本当にありがとうございました!」 二人の影を見送ってから、首を傾げた。 「あの二人、こんな所まで何しに来てたんだろ?」 ここはもう、人間の境界なのに。 「あ、そういえば」 私の名前教えたっけ、とまた首を傾げた。 |