七.





思い出したことがある。






気持ち悪い、と言われた。

化け物みたいだと、言われた。

化け物だと、言われた。







仕方ないのだろう、仕方なかったのだろう。
家から――否、家の隣の小屋から、出してもらえなかった。


化け物だと詰りながら、父親らしき男は泣いていたように思う。
化け物が居ることが知れたら、どうなるかわからないからと。
化け物に謝りながら、彼は光を閉じた。


自分を世界から、隔離した。






何がいけなかったのだろうか、この白い髪がよくなかったのだろうか。
生まれたことがそもそも、悪かったのか。





声を上げる事は許されなかったから、口に指を差し込んで耐えた。
生きるのは辛く、しかし死ぬのは怖く、謝罪するようにきちんと届けられる食事を、無理矢理に口に運ぶ。







どうせだしてくれないなら、ころしてくれればいいのに。







そんな風に思いながら、食べた。
外に出るということも、殺されるということも、わかってはいなかったけれど。










彼女。










外から聞こえる、美しい声。
唄っている振りをして、自分に話しかけている声。
大人には気付かれないようにと、まるで逆様な、言葉。


隙間から伸ばされた白い指。
掴んだ瞬間に、声をあげて泣きたくなった。


開かれた扉。
見えた、まだらに色素の薄い髪。
白すぎる光の中に、立っている彼女。







「いなゃじ人一は物け化、うも」



逆様に言ってから笑って、




「ろだいなけいゃちいにここは物け化、らかだ?」





白い綺麗な手を伸ばして、






「行くよ」






ようやく普通の言葉で、彼女はそう言った。






いつも一緒に居てくれた筈なのに。
いつも一緒に居た筈なのに。













握った綺麗な手が、荒れてしまって尚美しいと思った手を――











「うろだんたっ失見、で処何」



それは思い出せない。


使わないと忘れてしまう逆様な言葉。
忘れたくないから、呟いた。
呪縛にも近い言葉――使わなくなったとき、自分は彼女を忘れ、彼女から解放されてしまうのだろう。

そして何となく、呪詛から放たれる瞬間は近づいている気がする――何となく、不必要になってしまう気がする。
それは幸せであるのに物悲しい幻想だった――だが涙はでない。









全ての原因に、そう、自分は気付いてしまったのだった。