六.




気付いたら抱かれていた。
記憶が曖昧だ。

霞んでいて、男がどんな表情をして自分を抱いたのかわからなくって。
それが少し、嫌だった。

誘ったのだろうか、自分が。

計算など何も、そこにはなく。
だけど何故だろう――今度は失敗しただとか、思わなかった。




「あーあ」




達した後に来る虚脱感に身を任せる。
先程まで身体は確かに快楽で高ぶっていたというのに、随分と気持ちが悪い。

これはいつものこと、か――



着物を寄せるようにしながら男の方を見ると、彼は既に衣服を直し――まあ元から大して整っていなかったけれど――刀を懐に、目を閉じていた。





そんなに大事なのか、刀と言うのは。




やはり、わからなかった。武士にしかわからない物なのかもしれない――しかし。
心底大事そうと言うわけでもなく、しかししっかりと握られた刀。





何となく、面白くなかった。






「かるてき起?」
「…………寝てる」
「んゃじるてき起」
「今から寝るところなんだ」
「てっ持刀?」
「いつもだろうが……それでわめくな」
「にか確」






起き上がらず、床を転がるように移動する。
触ると怒る気がしたので、膝の側で寸止め。
呼吸と共に上下する身体を見つめたのは僅かの間だけで、すぐに目を瞑った。




さら、と髪が動く感触。
心地が良かったので、そのまま暗闇の中にいる。



「……白えな」
「ろだ」



独り言のような声だったけれど――それに、応対してみせる。
生まれつきかと聞かれた気がしたので、笑って答えた。




「かるなはにいらぐタネらたっつったっなで陰おたきてし労苦?」
「ネタにしてどうしろっつーんだよ……ふあ」




眠そうに欠伸をしながら、男は「どうせ地毛なんだろ、」とやけに確信めいた事を言った。




「……よだんかわでんな」
「さあな」




確かに地毛なのだけれど。
何だか昔、この色の所為で随分嫌な目にあった気がするのだが――と言ってもあまり覚えていないが――今はただの、商売道具だった。
珍しいものに触れてみたがるのだ、人間と言う奴は。要するに、ゲテモノ食いと同じ心理だろう――怖いもの見たさ。
彼らは喜んで白髪に触れる。圧倒的な優越感を――もってして。





「あんた、黒髪の方が好み?」
「はあ?」




男は幾許か強く自分の髪を引いたようだった。





「興味ねえよ」




その後に「お前は好みじゃないがな」と付け加えられた。
腹が立ったので軽く叩いてみると、男は黙って刀の柄で小突いてきた。






何だか痛くて、涙が出そうだった。