五. 偶然だった。 家に居ると余りにも煩い連中が多すぎるので、眠れなく。 何かいい場所はないかと探していたところ、誘われて。 適当について行って、適当に相手を選んだ。 理由は、白髪が目に付いたというただそれだけだった。 そしてその偶然で出あった相手は、目の前で酷く――否。 なんといえばいいのか。 泣いているわけではないが苦しんでいるようでもあり、嘆いているような痛がっているような表情。 耐えるように噛み締められた指が酷く痛々しい。 惜しい、と思った。 美しい指だったのだ、それは。 普段その手のことに完全に無頓着な自分が、惜しいと思ってしまうほどには。 「はあ」 溜息は、よくわからないけれど決意のようなものだった。 立ち上がり部屋を出て、人を探す。 この場合、どういう人間に言えばいいのかはよくわからなかった。 たまたま最初に会った、短髪の男に話しかける。 何か苦しんでるから、どうにかしてやれ、とか。 自分はもう帰る、金はそのままでいい、とか。 そういう事を言おうと思っていたはずなのだ。 「おい、あんた」 「……何でしょう」 愛想の無い男だ、と少しだけ思う。これだって客商売だろうに。 「時間の延長っつーのは、できんのかね」 出てきた言葉は自分でも少し予想外で。 事実に気がつくのに、少しだけ掛かった。 「白鷺――でしたか。今日は確か――」 思い出すように沈黙してから、頷いた。 「大丈夫だと思いますが。代の方は」 「ちゃんと払う」 「ならば構いません」 適当に礼を言って、部屋に戻る。 戻るまでの間で、面倒くさくてたまらないと思った。 そして再び襖を開けて、自嘲にも似た表情を浮かべている――白髪の男を見たときに。 「……時間延びたから、幾らでもへこんでろ」 なんとなく、納得してしまったのだった。 一瞬虚脱するような表情の後に、再び強く歯を噛み締める。 それがなんとなく不愉快なものだから、無理に引き剥がした。 男の口から嗚咽とも叫びとも吐かない声が漏れる。 耳障りでたまらなかったけれど、それを鳴らさせたのは自分なのだから何も言う権利など無い。 「……煩い」 わかっているのにそんな言葉が口をついて出た。 心底不愉快極まりなく、男の口を塞いで引き寄せる。 声を抑えながら、それでも縋るように泣いた彼は、 やはりどうしようもなく、不愉快だった。 |