十四.



寝転がって、昔の事を考えてみた。畳の匂いがする。
目にかかる白い髪が――鬱陶しい。



何時の間にか寝てしまったのだろうか。
何だか、頭がぼーっとする。


「――白鷺」
「………………」
「白鷺」




綺麗な女の、声だった。
ああ、あの人の。
彼女の夢を見ているのか――と、酷く納得する。



体は起こさない。彼女は、目にかかった白髪を、かきあげてくれた。
白い、手だ。



「んさ姉」



そう呼びかけると、一旦手を止めたようである。



「なたっなく良分大、手」



最後に見た彼女の手は、労働の所為で、随分荒れていたけれど。
今は前の通りの、滑らかな手に戻っている。
少しばかり大きくなっているのは、過ぎた年月を差しているのだろうか。
変なところで現実的な夢だ、とおかしくなった。



「んめご」
「何、謝ってんのさ」
「だんるって売体、今俺」
「……知ってる」
「んめご、らかだ」
「別に謝る事じゃない。あんたが生きてられたんなら、それでいいわ」



彼女は自分の体だけは、絶対売らなかったのに。
自分は、楽な方に逃げてしまった。
彼女は優しく、自分の頭を撫でた。



「それより、他にあたしに話したい事、無いの?」
「るあ」
「何」
「たきでが奴なき好」




彼女になら言えた。
夢だからこそ、言える。



自分は、あいつが好きだ。




「初恋なわけ?」
「う違」



違うよ。



「よだたんあ、は恋初の俺」



手が再び止って――またゆっくりと撫でられる。
幾度もやられてきた愛撫とは違う、優しさだった。




「それは……ありがと」
「えいえい」
「あのさ。もしも、あんたが今度失恋したりしたら」
「よなう言事なや」
「もしも、だよ。今度あんたが、傷つくような事になったら」




その時はちゃんと、話すから。
意味がよく分からない言葉で――彼女の手は、自分から離れた。



「××××、鷺白」






その瞬間の言葉だけは、よくきこえていない。