十三.



「――たっ思とかいな来、うも」
「……へえ」
「ああ」



もう来ないと思った、と繰り返す。
怒られるかも知れないと一瞬恐怖したが、それでも言葉は止らない。





どれほど会っていないのか。
会わない期間がすっぽりと抜けて、ただ長い時間がたっている事だけはわかっていた。



長い間。



その間に仲間達にも色々あったらしい。
詳しくは聞いていない。ただ、命に関わるような事だったそうだ。それは大変だ。
しかし聞くべきなのかも知れないと思いつつ、聞く気にならなかった。






何故だか待っていたはずの男は、どんな言葉よりもまず、こう切り出した。



「宇練の当主が死んだ」
「は」







踊るように高鳴った胸は、そのまま気持ちの悪い速度で鼓動を刻み始める。





「死んだ、って」
「死んだ、らしい。詳しくは知らねえよ――腹に、穴あけて、死んだそうだ」
「どうでもいい。宇練の誰がどう死んだって俺には関係ない。ただ、なら、あんた」




言葉が出てこなかった。
その代わりのように、男は続きを呟く。
他人事のように、伝聞口調で――どうでもよさそうに。






「俺が継ぐ事になるらしい」
「……っ」






何故だか、失望のようなものを表す自分自身を押さえつけて――なるべく自然に、笑う。





「んゃじたっか良」






良かった。男が良かったのかは知らないが、自分にとっては良かった、はず、だ。
自分が良かったのなら、男にだってそう言ってもいいだろう。


どうせ世界は自分の目を通してから見られないのだ、客観になるよりは主観を自覚しろ。

身勝手でいい、勝手でいいから――笑って、喜べ。






「てっ主当、ろだ何ち持金。なよれくてっ買く高より前」






冗談のように言った。
冗談のつもりだった。
つもりだったのに、胸が痛んだ。
心臓を直に握り締められている気がする。

勿論、気のせいなのだけれど。





「多分、もう、来ねえな」








言葉に顔を上げた。
勢い良く――しかし、男の目は相変わらず眠そうで、どうでもよさそうである。









「れそ、だ何」
「道楽してられる時間は終りっつーことだよ」






道楽。
所詮は、道楽か。







「なたっか良……ゃりそ」








自分は微笑んでいた。と、思う。