十二.



死んだのだと聞かされたのは、それから直ぐの事である。

自分の周囲は俄かに慌しくなり、より一層――よく眠れなくなった。
出て行こうとすれば足止めされ、お前がいないとどうにもならないと言われる。


しかし家に居た所で、己を交えず、議題も何も決まっていない話合いが続けられるだけなのだ。




どうやら、殺されたかもしれないらしい。

それは、己の肉親で――現、否既に先代になるのか――宇練の当主の話である。
殺されるなど、面倒なことをしてくれた。

抱いた感想はそれだけである。

相手の顔すら思い出せず、それが少しだけ可笑しかった。
しかし後は――つまらない事ばかりだ。







自分抜きで話し合うなら結果だけ言いにくればいい。
そう思うのだが、自分は一度外に出すと戻ってくるかも怪しいと思われているらしいのだ。


まあ、当たってはいるが。

自分もこれから外に出て、戻ってくる自信などない。






これでは幽閉されているのと同じだ。
一体幾日たっただろう、随分長い時間を自分は過ごして――





ようやく話の決まったらしい親戚だか何だか知らない連中から、兎角働けと言われた。


そもそもこの年まで何故気ままに暮らさせていたのだとか、先代の事があるから出世は早かろうとか、これでとりあえず安泰だ――とか。
そんな声が外から聞こえて、しかし己の前に立つ際は――否、立ってさえおらず、頭を下げている。










「……いいから、外に出してくれ。何だ、当主ってのは軟禁されるもんなのかね」









口の滑りがやけにいいのは、自分が怒っているからだ。
というより、苛ついている――そういう表現が正しい。





一体何が原因なのか。
わからないふりをする。






目の前にいる人間はそれは出来ないだとか何だとか、言い訳じみた言葉を発した。
その時自分の苛立ちは頂点に達して、気が付けば。













しゃりん。











音がなってしばらく、何も起こらなかった。
ただ、目の前に居た人間は訝しげに何の音だろうかなどと呟いた後。






ずるり、と。

或いはぬるりと。



滑った。




滑った末に――落下する。

上半身のみが、落下する。





悲鳴もなく。

驚愕だけをたたえて――人間は落ちた。

体を落として、落命した。




そこで漸く血が飛び散り――異変に気付いた勘の良い人々が入ってきて。

口々に何かを叫び。



それから嬉しそうに笑った。





誰もそこに落ちている人間の死になど悼まない。
ただ、次に家の支えになる筈の人間――宇練銀閣の剣の腕を、純粋に喜んだ。











嗚呼、狂っている。












しかしその狂いは、決して心地の悪いものではなかった。