十.





背中合わせで、独り言のように会話をする。





「刀のそ」
「あ?」
「かのな事大」
「さあ……大事なんじゃねえのか」
「なたれ入てっ持くよ」
「抜こうとすればすぐ分かるから大丈夫だとか何だとか」
「……ここよかのるいもで者忍」




俺が知るか、と言って男は口をつぐんだ。





「てっだんい強たんあ?」
「知らねえな……弱くはねーんだろうが」
「ふうん」





言葉がひっくり返って元に戻り、同時に体の向きも変えて、男に覆いかぶさった。








「……何だ」
「しよーぜ」
「………………」






男は沈黙する。
何が、と聞くほど無粋ではなかったようだった。
そのまま、首に絡ませた腕の力を少しだけ強める。





苛立っていた。



それがまず前提にある。
別段、抱かれたかったわけでもなかったのだ。

自分が抱かれるのは仕事の為で、文句はあれど不満はなく、その代わり願望も何もありはしない。
年頃の娘でもあるまいし、行為に特別な意味を持つわけでもなく、ただ行為は行為というだけで。





ただ、抱かれている間なら、男はその刀を手放すだろうと思ったのだ。
何故そうさせたかったかなどは分からないけれど。


寝ている時すら持ったままのその刀が、酷く憎たらしかった。
離れずある武士の誇りで魂らしいその刀が――憎かった。






言葉にしてしまえば、それだけで。








「…………はあ」






男はゆっくりと、溜息を吐いた。
どうにでもとれる反応で、どうにでもとっていいような反応。





首を伸ばして骨に軽く口付ける。
それでも反応が無いので軽く吸ってみると、乱暴にひっぺがされ、組み敷かれた。










「……何してんのかねえ、俺は」
「下んねえことだよ」









嘲りを込めて――それは双方に対してだったけれど――言ってみれば、男は珍妙な顔をした。そして「そうかもな」とそれを肯定してしまった。









「あんた、宇練の次期当主なんだって?」









嘲りを込めて――これは自嘲の色味が強い――言ってみれば、男の表情は変わらない。
変わらないが込められた力が強くなったのがわかる。





「たっ怒?」
「んで俺が怒るんだよ」






そう言って男は乱暴な手つきで着物を剥いだ。
倒れこんだ視界の奥に、放置された刀が見える。








愚かしいとはわかりながら、刀に向かって勝ち誇り、笑った。