【真庭喋鳥】




「懸巣と椋鳥は何してんだろうな」
「どうせ嘘だらけの情報をぴーちくぱーちく喋っているのだろう」



足並みは、早い。
ずんずんと前へと進んでいく。
まるで迷いがなかった。
何処に何があるのか――何処に誰がいるのか、わからないというのに。
もっとも自分も大して気に指定ないので、ぐだぐだ言えはしない。



申し訳程度に建てられた壁を乗り越え、庭へと侵入。
随分と広い庭である――趣もある。
それだけで何となく、住んでいる人間の格が知れようというものだった。
無論、凄いという方の意味で。




「なー夜鷹」
「何だ。必要以上に喋るな。任務中だ」
「いやさ、お願いがあるんだけどよ」
「………………」




そこまで話したというのに夜鷹はまるで頓着せず、肩で風を切るように歩いていく。
人の話を聞こうとしない奴だった。



仕方がないので、足を速めて傍による。
大まか、夜鷹の気配の位置に向かって手を伸ばした。



ぐっ


「痛っ!? 何をする貴様! そこは目だ!」
「あ。悪ぃな」
「そこは口っ……というかそこは全体的に顔だ! 放すか死ぬか選べ!」
「俺、鳥目なんだよ」
「あ?」




訝しげな反応の後、嫌な沈黙が会った。
とても見えづらいのだが、どんな顔をしているのかわかりやすい。




「貴様……闇に滅すか?」
「先天性だかんなぁ。どうしようもねえぜ?」
「この無能が!」




まあ要するに、見えづらいから肩を貸してもらいたいのだ。
屋敷に入れば大丈夫だから、庭に居る僅かな間だけ。
それぐらいなら別に構わないだろうと思うのだが、どうにも冷たい反応だった。





――折角この喋鳥さんが頼んでやってんのによ。




まあ、こいつはこういう奴だ。
早速彼は断言する。




「帰れ、喋鳥。そんな目では役に立つまい」
「いーや? これでも忍法の関係で、耳は発達してんだぜ。大丈夫大丈夫」
「ふん。邪魔になったら即切るからな」
「つーか屋敷入れば大丈夫なんだがね。今だけ肩貸せって」
「何故貴様のような俗物に私様の体を許さねばならんのだ。本来ならば同じ空気を吸っている事すら不愉快だ」
「……『我でも駄目なのか、夜鷹。おぬしの肩があるととても助かるのだがな――』」
「っ! 貴様鳳凰様のお声を……!」
「『夜鷹。おぬしがそんなに礼儀を知らぬ口を聞くとは思わなかった』」
「! 申し訳ありません鳳凰さ……ではないっ! いい加減にせんか貴様! 闇に滅せ!」
「俺的に、そんな感嘆符ばっかの台詞を小声で喋れるあんたって結構凄いかもな」
「私様は凄いのだ」
「なら肩貸せって」
「断る。理由は前述の通りだ」
「鳳凰様の声で好きな事言ってやってもか?」
「…………。そんな破廉恥ができるか!」
「俺なんもいってねえじゃん? 何想像したんだよ」
「う――煩い! 下等生物が!」
「そりゃどうもありがとう上等生物」



――上等生物って思ったより語呂悪ぃな。



褒めているような気もするのだが、貶しているような気分になる。





「んじゃこれからあんたの仇名これで行くな。上等生物」
「……何だか腹が立つのだが」
「いいじゃん。上等な生物だぞ?」
「わかった。貴様自体がむかつくから何を言われてもむかつくしかないのだ」



失礼な奴だった。



「酷い言い方だぜ」
「悪いか?」
「悪くないと思ってんのか?」
「思っている」
「よし。なら鳳凰様に報告して構わねーな」
「なっ! 貴様卑怯だぞっ」
「悪くないんならいーじゃん」
「そういう問題ではないわ!」
「『ならばどういう問題なのだ、夜鷹。我には言えない事でもあるのか』」
「…………だから、鳳凰様のお声を使うな! ええいその忍法私によこせ!」
「よこせるわけねえだろ! つーか俺の忍法奪おうとかしてんじゃねえよ!」
「奪うのではない! 永遠に借りておくだけだ!」
「何処の餓鬼大将だ……じゃなかった。やべえやべえ。口が滑った」




まあ、自分も鳳凰の声を使うのは余り楽しい事ではないのでもうやらないが。



その――刹那。

気配、否殺気か。





反射的に飛びのいた後、地面の圧し潰される音が、した。

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