【真庭栗鼠】





「このbigなvoiceは山犬君ですね」
「何言ってるかわかんねえぜいやぁはぁ! 間違いは無さそうだけど――」




山の西側の麓にいて、のんびりと雑談をしていたところだった。
近くで聞いたら鼓膜が破れるのじゃないかという程の大声が、響く。

自分達の出番が回ってきて、良かったというべきか悪かったというべきか。
もっとも、この結果から判断して構わない事柄だろう。


犬の遠吠えにも聞こえる――声が二度。
自分達の方向に、敵が来ている――らしい。



その声を気に、少しだけ体を緊張させる。




「馴鹿君が行きますか?」



自分より彼の方が戦闘向きだ。
その足についた火打石を見ながら言ってみる。
彼はいつもの快活な笑顔で、返答してきた。



「二人でいってもいいと思うぜいやぁはぁ!」
「そう……ですか? 一人はstayした方がいいんじゃ」
「細かいこと気にしたら負けだぜ!」
「そ、そんな事ないと思いますけど……ってあああ馴鹿君っ!? waitwait! いや待たないでいいからseparateしてくださいっ!」
「セバスチャンとか言われてもおれにはわかんないからな!」
「notセバスですっ! separate! 離して離してー!」
「離してなるものかいやぁはぁ!」
「何のノリですか!?」



引きずられて、いる。
いや、そう形容するしかないのだが、何処となく語弊が――あるような。
引きずり回されている、という表現が正しいのか……?





「いやぁはぁ!」




そう宣言をして、かつん、と立ち止まる馴鹿。
空でも飛んだが如き勢いだった。
着地した瞬間、合わさった踵が僅かに火花を散らす。




「ここのようですね」
「そうだないやぁはぁ! ……? あ、でも」




気配がわからない、と馴鹿は言った。
自分も同感だった。




「途中で方向転換、したんでしょうか?」
「だったらそれも連絡が来るはずだぜいやぁはぁ!」




耳を澄ますまでも泣く、山犬の大声ならば山中に響き渡るだろう。
追加の声はないし、ここで間違いはないはずなのだが――



「っ」



そこで漸く、気配を察知する。
這っているのだろうか、随分と低い位置だ――木々の向こうから、その相手は姿を現して。






「……baby?」
「だ、な?」





這っているというか、はいはい姿で。
気配も感じられないぐらい幼い、赤ん坊だった。




「何で赤ちゃんが……って馴鹿君?」
「飴食べるかー?」
「赤ちゃんはまだ飴なんて食べれません……って何処から出したんですか!?」
「そりゃ勿論、袋からだぜいやぁはぁ!」





背負っている白い袋を見せて笑われる。






「くるみパンもあるぜいやぁはぁ!」
「えっpleaseですっ……じゃなくって!」
「はい、どうぞ」
「Thank you! ……じゃないですっ!」





まあ、折角なのでくるみパンは食べるけど。
食べながら、その赤ん坊を見つめる。
無邪気な風に微笑んだその子は既に満身創痍、よくぞここまで来たといった風情だった。

それに――血が。

明らかな返り血が、ついている。





「馴鹿君、やっぱりこの子――殲滅対象です」
「そうか? ああ、そうかもな、いやぁはぁ!」



ならどうぞ、とばかりに手で指し示してくる。



「僕ですか?」
「的が小さいと爆発させがいがない」
「むう……なら、」



苦無を探ったが、どうやら無いようだ。
さっきの山中引きずり回しの際に落としてしまったらしい。




――coolじゃないですけど……不可抗力ですか。




ならば仕方がないと、馴鹿が先刻出した棒付きの飴玉を、貸してもらった。





「youはこれからこのcandyで血とtogetherさせてあげましょう」





飴玉をくるり、と回転させる。
棒の側をその赤ん坊に向け、自分の出来る最速で、口に差し込んだ。

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