07.


「・・・・・・男二人、何が楽しくて遊園地」


げんなりと言った軋識に、笑顔で双識は答える。



「私は家族で遊園地に行くのが夢だったんだよ!」
「だったら舞織か人識つれていけっちゃ・・・・・・」
「男たるもの一度言ったことの責任はとるべきだぞアス」
「わあってる。そうじゃなきゃんな所いくわけっちゃ」





零崎軋識は相変わらずのランニング姿――ではなく、普通のワイシャツを前を空けて着ている。
お節介な双識の弟妹(いまだに自分の、というには違和感がある)が「デートにランニングなんてありえねえよ!」と声を揃え、なだめすかされ脅された結果だった。別にキャラ付けの為に着ているだけで、そこまでこだわりもない。



一方の零崎双識は、いつもはオールバックの髪の毛を一度下ろし、後ろで結い上げていた。男女兼用の服に身を包んだ彼は、まあ女に見えないこともない。というかよしんば顔が整っていることもあって、中性的な雰囲気である。これもまた、弟妹の尽力の結果だった。




「しっかし俺はともかく、お前がいつものスタイルを崩すとは少し意外だっちゃ」
「だって二人がね、遊園地に行くならこれが普通だと言うんだよ。私はその昔背広で遊園地に行ったことがあるが、つまりそれはかなり場違いな格好だったわけだね」
「それ以前にいい年した男が遊園地に入ってること自体が場違いだと思うんだが・・・・・・」





自分で言って自分で空しくなった軋識は、脱力したように肩を落とした。











「俺が言えることじゃねーっちゃか・・・・・・」











時既に遅し。大人二枚分のフリーパスを買って遊園地に入ったばかりだった。








「私が前に行った遊園地は子供が多かったんだけどね。ここはカップルが多いみたいだな」
「俺が子供の楽園みたいな遊園地選ぶと思うっちゃか?」


それでは既に拷問の粋だ。
カップルにまぎれたほうが幾らかマシである。


「で――何に乗るっちゃ?」
「アスは何でもすぐに結果を求めるなあ。そこがつまらない所だと兎吊木さんも言っていたよ?」
「こういう時にあいつの名前を出すなっちゃ」






眉をしかめた軋識に、双識は楽しそうに笑った。






「そういう時は俺の前で他の男の話はするなと言って、唇でも奪うのがセオリーだぞ?」
「っ・・・・・・そういう意味じゃ」










真っ赤になる軋識を見て、更に笑みを深める双識。








「ああやっぱりだ」
「・・・・・? 何がっちゃ」
「そういったらきっとアスは照れるだろうと思ったんだよ」






軋識は溜息をついた。いつから自分はこんなに溜息キャラになったのかといぶかしみつつ。
・・・いや、間違いなくこいつとかあいつとかの所為だけど。





「・・・・・・何でもいい。お前が決めろっちゃ、乗る物」





無理に話題をそらしてみる。双識はその意図を理解した上で乗ってくれた。





「じゃあ、セオリーに則って絶叫マシーンで」
「ああ、それでいいっちゃ」








* * *












「疲れた・・・・・」










三時間後。完全に疲弊しきった、零崎軋識の姿があった。







そう――ここは流石にカップル向けの遊園地だけあって、絶叫マシーンの数がべらぼうに多いのである。
今のでまだ半数も制覇していないだろう。






そして何より疲れるのが、零崎双識がちっとも疲れていない事実だった。








「だらしないねえ。体力ないんじゃないかい」
「うるせえ・・・・・・っちゃ・・・・・・おめーの三半規管はどうかしてる・・・・・・」









気持ち悪くなるほどである。乗りっぱなしだった。











「少し休もうか」



あの双識に慮られる。割と精神的に答えるものがあった。
しかしそれを払いのけられるほど、今の軋識は肉体的に元気ではない。





「何か飲むっちゃか? ・・・・・・買ってくるっちゃよ」
「私が買ってきたほうがいいんじゃないのかい?」
「いや、それぐらい譲れ」






そうじゃないと格好悪すぎる。
今でも十分、格好悪いけれど。









「じゃあ頼むよ。コーラで」
「コーラ? お前そんなもん好きだったっちゃか」
「いや。なんとなくそういう雰囲気かなあと思って」




どんな雰囲気だ。



それでも本人が言っているのに無視も出来ず、軋識は飲み物を買いに、大儀そうに立ち上がった。