06.





「アス?」



軽く、もし寝ていたら起こさないようにという配慮を持ってドアをノックする。
返事がないことから鑑みても、どうやら零崎軋識は寝てしまっているようだった。




気配を完全に消して、彼に歩み寄り。

寝ている彼の近くに座り込んだ。







「………………」







無言で、愛おしそうに頭をなでる。

昔、このぬくもりを無性に求めていたのだと思うと、失笑が漏れた。



求めていたものを、与えられるほどの存在になった。
それは酷く、幸せなこと。




全ては……彼の、彼らの――愛すべき家族のおかげなのだけれど。








「アス」






聞こえていない事は承知で、聞こえていないからこそ、双識は軋識に話しかけた。











「ごめん、な」













それでもう十分だと思ったのだろう、部屋から立ち去ろうとする。
その彼の細い腕を、





「………何がごめんだっちゃ」





軋識が、掴んだ。
内心の動揺を抑えつつ、双識は平静を装う。





しかし、どうやら失敗したようだった。





軋識の不機嫌そうな表情が、それを露骨に物語っている。




「起きてたのかい」
「起きてた」
「なら返事をしてくれればいいのに。中々人が悪いねアスは」
「俺はもう餓鬼じゃねーんだから頭なでるのは止めろっちゃ」
「ん?しかし兎吊木さんがアスは頭をなでられるのが好きだと言っていたが」
「………………あの変態野郎、どうやって殺すべきか……」





冗談だよ、と双識は言ったが、到底信用できないといった表情をしている。
兎吊木垓輔なら言いかねない。





「いやね、君が寝ているところを見ると……」

「?」




「人識君の小さい頃を思い出す」


「頼むから俺を見てあいつを思いだすんじゃねーっちゃ……」







本気で嫌そうだった。






「レン……お前」
「なんだい?」



「お前は、何にも気にする必要はねーっちゃよ」


「………………」




「兎吊木に、何言われたかは知らねーけど。これは俺の問題だっちゃ――謝られたら、何の為にここいるのか分からなくなる」





だから、と。

闇を見つめたまま、軋識は言った。






「謝るな」
「……ああ。悪」





無意識にも出てきそうになる謝罪の言葉は、唇を塞がれ、消える。


細やかな黒髪が指に絡みつく。
さながら、縋るように。





双識は、可笑しそうに笑った。





「これって近親相姦になるのかな?」
「知ったこっちゃねーっちゃ。……大体それを言うなら人識と舞織もだっちゃ」
「……それ本当かい?」
「聞いてなかったちやか?」
「聞いてないよ……人識の奴」
「まあ気持ちは分からんでもないっちゃ。不本意ながら」
「私には全然分からないな。全く、不本意だけど。」



「………………」
「………………」







「うふふ」
「きひひ」















「愛してるよアス」
「…………わあってるっちゃ」