04.


白い、エプロン。そう表現すればいくらかマシにはなるのだろうが、それはあくまでマシになったというだけだ。





もっと細かく描写をすると、メイドだか何だかが付けてそうな、フリルのついたエプロンだった。






別にそれだけなら軋識はどうでもいいと一瞥するのだろうが、問題は。






それを零崎双識がつけているという現実。

しかも奴がたった今外から帰ってきたらしいという、現状。

更に言うなら、今ここに自分以外に兎吊木垓輔がいたりする、状況。










最悪×3というより最悪の三乗だった。











双識の愛用していたエプロンは、確か弟妹達から贈られた、あくまで男物の粋を出ないスタイルの物だった筈なのだが。




……一体何があったんだ。
性別どころか人種を超えているようなエプロンだ。





「レン……」


言葉もない。お決まりのやり取りすら、ない。





 
「ああ、これはね、この間舞織ちゃんと人識君がくれたんだよ。新婚さんエプロンと言うらしい」
「名称まで分かってんなら使うんじゃねえ!しかも何でわざわざ外まで付けて行ってるっちゃ!」
「折角貰ったからね、主婦仲間に見せようかと思って。皆涙を流して喜んでくれたよ」
「何時の間にそんな妙な仲間に……」





最近家に帰ろうとするたびおばさん達の視線が気になるのはそういう裏か。
頼むから仲間は選べ。いや、俺の言えたことじゃないけど。










「中々いい趣味してるねえ《街》」









ぞっとする声が、響く。選びたくなかった仲間の一人である男の声だ。








「……俺の趣味じゃねーっちゃ」
「ん?アスお客さんかい?珍しいね」





と、そこで兎吊木は席を立ち、双識に歩み寄る。
軽く頭を下げて、いつもの気持ち悪い笑顔で言った。




「式岸軋騎君の愛人の兎吊木垓輔ですよろしく」
「ああ、零崎軋識の恋人の零崎双識です。こちらこそよろしく」








頭が痛くなった軋識だった。










「だれがお前と愛人関係結んだんだ兎吊木」
「いやこんなの出会い頭の軽いジョークじゃないか」
「そうだよアス。そういちいち口を出さなくても。何かいいことでもあったのかい?」
「だからそれは違うキャラだ!」







しかも本日二回目だった。









「双識君、一ついいかな?」
「ん?何です兎吊木さん」
「そのエプロン……」








一体何を言われるのかと身構える軋識。








「正式名称はメイドさんエプロンだと思うんだ」
「果てしなくどうでもいいっちゃ!」






もうどっちのキャラだとか構ってられなかった。






「メイドさんエプロンか……うふふ。メイドさんはいい」
「うん。メイドさんはいいね」
「女子高生だったら最高ですよね」
「女子中学生でも問題ないけどね」
「小学生だって構わないと思いますよ」
「頼むからそこで変態ロリコン合戦を繰り広げるのを止めろ……」






なんとなく疎外感を感じる。
いや、別に仲間に入りたいわけじゃないのだけど。




しかし妙に気の合いそうな二人だ、とか考えていると。
その通りらしくいい笑顔でがっしりと握手を交わしていた。






いい笑顔。
これもある意味、忘れられそうにない。








「まあとりあえず中に入りなさい」
「あ、はいお邪魔します」
「何でお前が主導権握ってるっちゃ!」






そして何故ノる。





「全くノリが悪いねえ《街》は」
「まあアスだから仕方がないんだけどね」
「主導権握りたい年頃でもないだろうに。もっと大人になれよ」








…………何でこの部屋の主である筈の俺はこんなに酷い扱いを受けてるんだろう。








どうしようもない疑問が浮かんできた。
しかし何でこんな自分の周りには変な奴しかいないんだろう。









一瞬、「類は友を呼ぶ」という慣用句が出てきてそれを否定する。









あくまで、絶対に、こんなに変態では、ない。




「そうか、双識君には弟と妹がいるのかい」
「はい、兎吊木さんは?」
「俺は妹が二人いる」
「へえ。それはいいですね」
「ああ、もう本当に目に入れても痛くないよ」





一人で考え込んでいたら、いつのまにやら変態二人は親交を深めているようだった。



もう、何がなにやら。