14.


「甘いなあ、ぐっちゃんは」




少女は呟いた。その蒼い瞳に映るのは、一撃で破壊された目の前のパソコン類。
男は――静かに、言葉を返した。




「《同志》のリーダーは死にました」





壊されたこの白い機械達だけが――


玖渚友に、絶大の破壊力を持たせていたのだ。オンラインでしかその戦力を保持できない少女。




だからそれを壊すというのは。

即ち――死を意味していると、思う。




詭弁かもしれない。
あるいは、言い訳か。




それでも構わない――そんな風に軋識は思考する。




あの口の堅い女からも、同時に目の前の少女からも貰った称号――蔑称かもしれないけれど――なのだ。





自分は甘い。





あれだけ甘い男と一緒に暮らしているのだ――それも、仕方ないことなのだろう。





「オフラインで――貴方はただの少女だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「孤独な、一人きりの」




愚神礼賛を、バックにしまいなおす。
これ以上、彼女に敵意も殺意も向ける気はない。
向けれる余裕もない。




「貴方は――待っているんでしょう。代理品はあくまで、代理品――自分に嘘を吐くことなど、貴方にとっては簡単でしょうけど」




自分には難しかったけれど。
彼女には、簡単だったろう。



「そう言うことを全部止めて――見えてくる事も、あると思います」




少女は口を開かなかった。
それは少しだけ残念で、それでも、そういうものなのかもしれなかった。




ふと。
思いつきで、最後の勇気を振り絞ってみる。





「暴君」
「何?」
「もし、《彼》が帰ってこなかったら」





蒼い少女を見て、もう一度笑った。
本心からの、決して叶わない願いを込めて。





「俺ともう一度、友達になってくれませんか?」
「いいよ」




少女は即答する。その答えによって――また、笑みを深める。
歳相応に、玖渚友は首を傾げた。
随分と――かわいらしい、仕草で。





「でも、たぶん、ぐっちゃんがそう言うからには、いーちゃんは帰ってくるんじゃないかな」




だって、と少女は続ける。




「ぐっちゃんも、運悪いもんね」






他に誰が運が悪いのか。
最早、問うまでもなくて。





軋識は、少女に向かって語った。
少女よりも、13年程長い人生のなかで悟った真実を。




「運の良さ悪さは、幸せ不幸せに、なんら関係ありませんから」





運の良し悪しだけじゃなく。
どんな正も、どんな悪も――生も死も、何もかも――幸せには、本当の幸せには関係がない。
真実の幸福とは――揺るがない、ものなのだから。




果たして少女はそれを理解したのか、小さく頷いた。





「うん――そうかもしれない」






それから、軽く手を振る。
まるで今までのように。
再会など、願わなくてもあるように。





「じゃあね、ぐっちゃん」
「ええ――さようなら、暴君」





去っていく軋識を見つめてから。








「そんなとこまで似なくていいのに」








少女はそう呟いて、膝を抱えた。