15. のんびりとした足取りで、寧ろ放心したような感じで、家までたどり着いて。 玄関のドアを、開ける。 双識がいた。 微笑んで、いる。 「ア――」 名前を呼ばれる前に、抱きしめて。 壊れるぐらい強く、抱きしめて。 「ただいま」 帰ってきた。 涙はでない――それでも、無性に悲しかった。 寂しかったのかも、知れない。 何かが消えて、なくなってしまった気分。 喪失感。 幸せなのか不幸せなのか、目頭が熱い。 万が一にも涙が零れない様に、瞳をきつく閉じる。 兎角――誰かを抱きしめたくて。 抱きしめ、られたかった。 そんな事、口が裂けても言わないけど。 「――お疲れ」 「・・・・・・ああ」 たぶん。 今なら。 今までずっと――言えなかった言葉すら―― 「双識」 言える気が、 「っ?!」 突然、手を離す。 抱擁と言うその形を、崩す。 直ぐに上がる、若い声。 「ほらー人識君ちゃんと隠れてないからですよー?」 「人の所為にしてんじゃねえ。明らかに今の視線お前に向いてたぜ」 「そんなことありませんよう。目あってませんもん」 「・・・・・・お前ら」 散らすようにどける。 二人は大仰に逃げて見せた。 「いや、まあ、続きをどうぞって事で」 「出来るか!」 つまりませんねえだの何だのぼやきながら、二人はリビングに帰っていく。 ぼやきたいのはこっちの方だった。 後ろで双識は苦笑している。 「まあとりあえず、おかえり」 「ただいま――」 もう一度言って。 帰ってきたことを、再び実感して。 「愛してる」 言えなかった言葉を、言った。 双識は一瞬驚いたような顔をして――それから嬉しそうに笑うから。 これが幸せなのだと――少しばかり情け無さそうに、笑い返した。 end. |