九.瀬戸際。
「……っ……」 先程から何回も時間を確認する七花。 落ち着きのなさは最初の比ではなかったが、最早とがめもそれを止められはしなかった。 不味い時間なのは了承している。 これを認めるのは心の底から不本意だったが、真庭忍軍の頭領達の力を、とがめは決して軽んじてはいない。 いざとなれば裏切られる可能性を含めて考えても、その力には頼るべき価値がある。 奇策は、感情とはまた別物なのだ。 その頭領のうち三人が投入されて――いまだ何の連絡もない。 その事実が何を示すのかは、言うまでも無かった。 肉親を――失うかもしれないという、恐怖。 同時に、今ならば救えるという、焦り。 そもそも情緒の薄い七花の中で、混乱を極める程の混沌が渦巻いているのは間違いようもない。 ……そろそろ、限界かもしれないな。 そう思ったとがめの正に予想通り――このあたり、七花の行動はとがめに筒抜けだった――七花はだん、と立ち上がる。 「とがめ……っ」 「落ち着け七花」 「落ち着いてられるか! 姉ちゃんが危ないんだぞ! 幾らとがめでも、」 そこまで激昂して、何かが覚めたように立ち尽くす。 怒っても詮のないことに気がついたのかもしれない――そうとがめは予想したけれど、実際のところ。 七花はとがめに言う事が出来なかったのだ。 肉親が死にそうなその時に、悠々と構えていられるか、など。 七花だけは――否、誰もとがめにそんな事を言う権利はない。 目の前で肉親を殺された、彼女に。 幼すぎて弱すぎて、ただただ殺される様を見ているしかなかった、彼女に。 その復讐のために、ありとあらゆる手段を用いて生き抜いてきた――一人の女に。 一体誰が、そんなことを。 少なくとも七花には、無理だった。 「ぞえねく良はカンケ」 「「…………!?」」 突然の声に、急いでそちらの方を向けば。 真庭白鷺が、当然のように七花の隣に座っている。 「貴様……っ何故ここにいる!」 「んゃじいい。しだんえねゃじけわたし入乱にトーデに別」 「そう言う問題ではない……!」 「……ていうか、何て言ってるんだ?」 なんだかんだ言いつつ、頭の回転が早いとがめは、何とかその言葉が理解できたけれど。 七花には全然のようだった。 「なよるなんや」 白鷺は溜息をつくと、言葉を元に戻す。 「そう怒るもんじゃねえって、奇策士。俺はあんたらに情報を持ってきてやったんだからな」 「情報って……!」 「悪い方だけど」 また立ち上がりかけた七花に、釘をさす一言。 衝撃で、カップが床に落ちて、割れた。 それがどうにも不吉な予感を煽るものだから、とがめはらしくもなく、既に分かっている時間を確認した。 残り、三十分。 |