八.往生際。
「……不味いなあ」



下方階担当、真庭蜜蜂。
気配のある方ある方を探し回っているのだけれど、肝心の七実は少しもいない。
既に脱出しているなら、下の方に来てもよさそうなのだが。






恐るべし方向音痴。







現在を持って残り35分――口に出している通り、かなり不味い状況である。






「ん?」







その時蜜蜂は、一つの部屋を見つけた。


蜜蜂は少し迷ってから、再び先輩二人に連絡を取る。






「はい。……時間もないですから、仕方ないかと……はい、ありがとうございます」






電話を切ると、目の前の部屋に踏み込む。
中には丁度悪く人がいたので、気配を消して忍び寄り、声を出す間もなく気絶させた。




蜜蜂が入った部屋の名前。




それは――














『放送室』。














* * *














「……どこにいったのかしら」






少し目を離した瞬間に、ラスボスは消えていた。
本当、鑢七実が気がつかないぐらい、速く。
もっとも七実の目は、その原因を既に割り出していたけれど――





「抜け穴、ねえ……今時本当に使う人がいるなんて。よほどベタなのが好きなのね」






ここはゲームのダンジョンか何かなのか。
それは思うにとどめて、七実は仕方なく社長室を出た。
出た、ところで。





「…………っく」






痛みに耐えられず床へと転がる。
受身も取れないまま、少しだけ高級そうな絨毯に助けられる形で体を打ちつけた。
体をくの字に曲げながら、痛みが通り抜けるのを待つ。

先程までの渇いた咳とは明らかに格の違う、血を伴った咳が出た。
最早叫びとも形容できるぐらいの、激しい咳込み。








意識が白く歪んできて、混濁してくるのを感じる。
低い視界で見つめる世界は、驚く程に醜い。






「……もうぎりぎりと、いうことかしら」






苦し紛れを誤魔化すように言ってみると、矢張り大きな咳が出る。
体が痙攣を伴ってきた。久方ぶりの禁断症状。







死ぬかもしれない。







そんな事をはっきりと、それでいて何の躊躇もなく思うと、瞳を閉じる。
瞼の裏に浮かんだ人間は意外にも多くて、ならば構いはしないと微笑んだ。