七.下剋上。
「………………」

蝶々と鴛鴦がお前らいい年してこっ恥ずかしいよなあな再会を果たしたその頃、真庭蟷螂は難しい顔で考えていた。
幾ら考えることが迷うことと同義といえど、考えなければならない状況だったのである。

視線の先には、ある一室。
あるのは、恐らくは拘束に使っていた縄の残骸と――拘束に使っていた男達の燦燦たる屍だった。


鑢七実はここにいたのだろう。とりあえずそれは間違いがない。
鴛鴦の可能性もなくはなかったが、それにしては手口が違う。

これは虚刀流の遣り方だ。





しかし問題は、今そこに七実はいないことだった。






「何処に行ったか……だな」






よって蟷螂は考え込んでいるのである。
時間は後四十分。そもそも二時間というのはぎりぎりまで見積もった場合で、そこに達するまでに危篤に陥ってしまうのは想像に難くなかった。
考える時間はないといっても、考えずにはいられない。





「わたしだったら、ここから下に下りるが……ならば上にあがるのか?」





方向音痴でないものが、方向音痴の思考を理解するのは難しい。
ほとんど不可能と言ってもいい。




「いや……流石に上下の区別ぐらいは、つくか」





つかなかったのである。決して病で意識が朦朧としている所為ではない。



とりあえず下に向かおうかと、蟷螂が踏み出した瞬間、携帯が鳴った。
鳴ったといっても、余程訓練していなければ聞き取れない、超音波に限りなく近い音である。
任務時に使用する、特別用だった。






「蜜蜂か」





辺りに気配のないのを確認して、電話に出る蟷螂。





「……鴛鴦が? そうか。ならば後は鑢七実だけだな。ああ、監禁されていた場所はわかった」






とりあえず今の状況を報告しあい、手当たり次第に探すことで同意。
如何せん空間が広いのである。ただ、まだ外には出ていないらしいのが唯一の救いだった。
いや、外はとがめと七花が見張っているから、出たほうが良かったのかもしれないけど。




「……人間が多すぎて気配を特定できぬのが難点だな」





そんな風にごちてから、蟷螂は動き始めた。








* * *








「お、お前は、何で、何でここに!?」
「……驚くぐらいにかませ犬みたいな台詞ですね。えっと」





そこでこほこほと咳をする七実。
似合いすぎる溜息をついてから、言葉を続ける。




「とりあえず貴方がラスボスということで――よろしいのでしょうか?」





そこは、このビル内で一番豪奢な装飾の部屋だった。

つまりは、社長室というか。




「しかしどうして悪役のというのは高いところが好きなんでしょう……要するに、馬鹿なんでしょうか」




余裕たっぷりにそう言って、再び咳をする。いつもより頻度の早いその咳に、七実は顔をしかめた。





「……早く出なければ、少し不味いわね――そこの貴方。ここはどこだか教えていただけませんか?」






返事はなかった。