六.韋駄天。
素早く、確信を持った動きで――真庭蝶々は、歩を進めていた。
印象的には歩というより、飛車角だったけれど。


ついでに言えば、王手でもあった。







「こっちにいる気がする……!」







別に蝶々は犬ではないから鼻がそこまで利くわけでもない。
しかし、何故か正確・確実に、鴛鴦の居場所まで走っていた。
愛の力かもしれない。





…………。






愛の力すげえ。















一つの扉を発見、確信を持って勢いよく扉を開けば――






「蝶々」






当然のように立っている、鴛鴦がいた。
周りには、屈強そうな男達が倒れていた。





「………………」







いや、予想ぐらいはしていた。
半ば予想してたけれど、明らかに人選ミスだ。人質が務まるわけもなかった。
七実の方も右に同じな気がする、と蝶々は思う。





大正解。












「……遅いのよ」








鴛鴦が怒ったように腰に手を当て、蝶々の方に身体を向けた瞬間。








「鴛鴦っ」










背後にいた男が、立ち上がり、拳を振りかぶった。
慌てて蝶々は、鴛鴦の元に何かを投げる。






それを素早く受け取ると、僅かに手首を返す鴛鴦。
その動きだけで、後ろの男は再び地に伏した。








「……忍法永劫鞭」
「はあ……」









疲労からとも、安堵からとも取れる溜息をつく蝶々。
鴛鴦は再度、身体に慣らすように永劫鞭を振るうと、腕を組んだ。
拗ねたような感じだった。





「遅いのよ」






そしてもう一度やり直す。
やり直すのかよ。




しかし蝶々のつっこみは、対鴛鴦にだけは作用しないのだった。


バカップルめ。








「ごめん」







素直に謝った蝶々に、少しだけ驚いた顔をする鴛鴦。







「無事で良かった」
「……当たり前。そんなに心配しなくても、大丈夫なんだから」
「でも、良かったよ」





二人はしばし見つめあった。








「行くか」
「うん」










一緒にいられなかった時間を、埋めるように手を繋いで。