四.目一杯。
「でっかいビル」
「これ丸々一個借りてるって――お金、持ってる人は持ってるもんですよね」
「今更だな」



ビルの正面に、堂々と佇む三人の男。
鎖を巻きつけた、袖のないしのび装束――



言うまでもなく、真庭忍軍真庭虫組だった。








相手の居場所はわかった。



作戦は単純――潜入し、救出すること。
できればその場で、相手を殺すこと。







「こんな奴らに頼るなど――」
「奇策士さん。今は言ってる場合じゃありません――鴛鴦さんの事が絡んだ以上、僕らは動きます」
「別に他の者に頼っても構わんが――その場合、互いを阻害しあうことになるだろうな。手間が二倍だ」






その他諸々、紆余曲折があって――結局、虫組三人で挑むことに相成った。
彼らはそれぞれ、鑢七実に投与するための薬を身体に持たされている。




七花は自分が行くことを主張したけれど――普段執着を見せない彼にしては、随分と必死そうだったけれど。
純然たる剣士の七花は、隠密には向かない。下手に騒げばその間に二人がどうなるかわからないのだ――ここは、しのびに任せておくのが良策だと、とがめに言われたこともあり、彼は不承不承納得したようだった。
今はビルの付近に奇策士と共に待機しているはずである。








「行くぞ」









残り時間は既に――一時間を切っていた。











* * *











真庭鴛鴦は、鑢七実を訪ねていた。
その理由を、蝶々は知っている。





『この間、七実が来たんだけど』
『? それがどうかしたのか?』
『髪留忘れて行ったのよ。今度渡しに行こう――』





真庭鴛鴦と鑢七実は、気も合わないし仲も良くないしこれと言って共通点はない二人なのだけれど――
それでも何故か、結構つるんでいたりする。








蝶々は鴛鴦が幸せならそれで全然構わなかった。
しかし。








「……ちっ」












舌打ちせずにはいられない。
別に七実を責める気も、とがめを責める気もないが――













これは焦りと怒りからの、舌打ちだった。














鴛鴦は現在前線からは退いている。
七実に会いに行くのに、武器など持って行こう筈もない。










何かあったら。













七花には――七実にも悪いと思いつつ、蝶々の頭の中には鴛鴦のことしかなかった。










無事でいて欲しい。














それだけで、それが全て。