三.居丈高。
不愉快極まりない表情を隠しもしない奇策士・とがめが持ってきた話は、大まか今の状況に適したものだった。
まず初めにとがめは、




「悪かった」





謝った。


態度は全然変わらなかったが、それでも謝った。
普段ならここで真庭忍軍側から何らかのリアクションがあっても良かったのだろうけれど、生憎今はシリアスモードだ。


つっこみも、からかいも、茶々も入らない。
どころか、相槌すら入らなかった。







「私のミスだ。迂闊に七実のところに出入りするべきではなかった」






それだけで、察しのいい三人に、要因ははっきりと伝わる。






「つまり、誘拐騒ぎは奇策士どのが目的という事で――良いのかな」
「そうなるな。何故真庭鴛鴦までかどわかされたかはわからないが、状況からみて間違いはない」








この状況、この場面で騙し透かしもなかろうと、いつもの腹の探りあいは抜きで話は進む。
いつもなら一々確認のつっこみが入っているところだ。







「相手の目星は」
「ついている」
「なら――」




「だが、貴様らに教えるとは言っていない」




「な」
「勝手に動くなといつも言っているはずだぞ七花。別に真庭忍軍に頼らずとも、動かせる手ごまならある」













「……っざけんな……!」










とがめに掴みかからんばかりの剣幕の蝶々を片手で抑える蟷螂。












「落ち着け蝶々」








興奮した方の負けだ。
言外に意味を込めると、それを察したのか蝶々は、拳を固めて俯いた。














「残念だが奇策士どの」
「………………」
「鑢七花との契約は既に成立した。嫌でも教えてもらうぞ」
「な……っ」











とがめは大声言い返す。












「嘘を吐け! 成立なんかしておらんくせに!」
「したぞ。『ねえちゃんを助けたいんだ』」





少し考えてから蜜蜂が続ける。






「『頼む、金なら払うから』……でしたっけ」
「その後に『幾ら出せる』で」
「対して『幾らでもいい』。この時点で契約終了だな」
「うっ……」






この場合、口頭だという理由で契約の無効を言い渡すのは不可能だ。
そもそも後ろ暗い仕事しかしない忍軍の場合、後々に残る書類での契約など希なのである。







「そんなのずーるーいー!」
「褒め言葉だな」
「卑怯卑劣ってつけてもらえると嬉しいですよね」





ばたばたと手足を動かすとがめに、不敵に言い切る蟷螂。









「これはしのびの領分だ――情報を、頂こうか」