十四.。
勢いよく、ビルに駆け込もうとしていた七花を、携帯のコール音が押し留めた。
特に何という事もなさそうに通話ボタンを押して、叫びにも近い声が響く。


『七花さん! ちょっと待ってくだ――』



受け止めろ、と。



そんな訳の分からない指示を受け、上を見上げた七花は――何やら黒い点が、太陽を背に落下してくるのを見る。




「あれか!?」


いいながらゆっくりと腰を落し、構えを作ったところで、とがめから怒鳴られた。


「あほかぁあああ! 受け止められる訳がないだろう! 危ないからどけ!」
「大丈夫だってば」
「重力を舐めるな! 受け止めた方も受け止められた方も無事では済まんぞ!」
「んゃじいいーま」
「よくないわ! 貴様他人事だと思って無責任な口を利くな! 後放せ!」
「なしだ事人他あま」


後ろから白鷺に身動きを封じられつつ、それでもとがめは叫ぶ。


「良いか七花! 地球には重力がある! 自由落下ならば、落した高さから比例して速度はあがり、速度に比例して衝撃も増えるのだ! それから作用反作用の法則と言うのがあってな、これは衝撃を受けた者と同じだけの衝撃を与えたほうも受けるという力学の法則で――」
「ごめん、とがめ」
「何だ!」



「おれ馬鹿だからそんな事言われてもわからん」
「……!」


正論だった。
正に馬の耳に念仏、犬に論語。


七花に理屈。



「ちぇりおぉぉぉおおっ! 要するに危ない上におぬしだけでなく落ちてきた連中も無事では済まないから止めろ!」
「うん、それはわかりやすい」
「であろう! なら」
「でもさ、ここで動かないと結局、死んじまうだろ?」


それは嫌なんだよなーと、緊迫感に掛ける口調で七花。


「おれだけ生きようとするのも、何かせこいし」
「そなたは私の刀だろう!」


主人の許可なく死のうとするな、というとがめに対し。


「そうだ。おれはあんたの刀だ」


だからあんたの刀を信じろ、と七花は笑って見せた。



「七花――」
「よし来いっ」



確かに、七実一人の体なら或いは、と思ってとがめは宙を見る。
随分な距離にあった黒点は、最早視認で切るほどに近く――



「ってぇええ多!」
「え――ぐえっ」



一瞬視線のそれた七花を押しつぶすように、着地した。