十五.大円団。
「前々から人間離れした連中だとは思っていたが、リアルに化物だったのか?」

嫌味を込めてのとがめの言葉だった。


「それだと一番の化物は鑢七花じゃないのさ」
「う」

簡単に答えた鴛鴦の手足にはところどころ包帯が巻きついており、しかし大事に至った風も無い。


「確かに七花もそうだがありえんだろう! あの距離で、あの人数だぞ! 何故全員その程度の傷なのだ!?」
「鍛え方が違うんじゃないの」
「鍛え方で重力に勝てるか!」


軽い口論をする二人に「ちょっと静かにしろよ」と言う蝶々。
彼の場合、両腕に包帯が巻きついている。


「あのな、奇策士。全員この程度の負傷で済んだのは、落ちる瞬間に足軽使って衝撃を最小限に抑えたからだ」
「……成程な」

そもそも足軽自体が普通の人間にありえるレベルではないと思うのだが、そこを言い出すと色々ブラックボックスに触れそうな気がしたとがめは、一応納得して見せた。
鴛鴦はけろりと「もうばらしちゃったわけ」などと言っている。

「いや、それにしてもよく避けなかったよな。足軽使うなんて伝える暇なかったのによ」
「肝が据わって居るのだ」

本当はその危険性に気付けなかっただけなのだが、とりあえず手柄にしておくとがめだった。


「あれでも結構な衝撃だったはずなんだけどな」

感心したように言う蝶々を見て、何かに気がつき首を傾げるとがめ。




「……貴様らもしかして七花をクッション代わりに使う気満々だったな?」




返事はない。



「貴様らぁあああ!」
「静かにしろ。院内だ」



席を外していた蟷螂に、戻ってきて早々たしなめられ、とがめは「うぐぐ」と言いながら拳を握る。
院内――病院内。
薬を投与してもかなり危険な状態だった七実の、治療中なのである。
とは言え、最早峠は越したと言ってもいい――正確に言えば越してないのだが、この程度の峠なら七実は楽に越せる――ので、割合砕けた雰囲気である。


同じく戻ってきた、七花が言った。


「別にいいじゃんか、とがめ。そんなに重くなかったぞ?」
「……凄いな。化物みたいだ」
「化物だね」
「化物だ」
「貴様ら自分達の事は棚に上げて……!」
「というより、多分七実さんも使ったんじゃないですか、足軽」


また騒ぎになりそうな集団をいなすように言う蜜蜂。


「それなら二人分で、大分衝撃も薄まったでしょうし」
「あーそうかもな」
「ありえる話ではある」
「普通あの状況で……いや……化物というならあやつが一番化物だな……」


最早侮蔑的なニュアンスの消えてきた「化物」という言葉に、一同は同意を示した。
鑢七実なら何をしてもおかしくないという共通認識である。


なので。






「――皆さん酷いですね。人のいない所で陰口なんか叩いて。苛められると泣きますよ?」





さも当然の如くに扉から現れた不健康そうな女に全員特に驚く事もなく目をやり、誰ともなく誰にともなく、「お疲れ」と呟くのだった。








―了―