十二.臨界点。
「……社長室に居た形跡がある!?」
「なんでそんなとこにいるのよ……!」




「甘く見すぎてましたね……」




「これ以上甘くは見れぬがな」




ラスト二十分。




「もう動けなくなってる可能性は高いわね……」
「下の階は蜜蜂が見てるはずだ……後、行ってないのは」




「最上部――それから、屋上ですか」




「ぬしら――わかってるな」




「当然」




ただ、上へ。






* * *





揺れる。
揺れる。
揺れる。

視界が揺れる。
身体が揺れる。
世界が揺れる。


気持ち、悪い。



「梃子摺らせて貰ったなあ」


しみじみと言う声がする。
気持ち悪い。


どうやら抱え上げられているようだ。
どうやら運ばれているようだ。



嗚呼――気持ち悪い。


「俺は何がしたかったのやら……いやはや」



知るか。
大きな咳をすると、にやにやと音の聞こえそうな程の笑み。



「うちの会社の屋上はね、フェンスが低いんだよ」



まあ学校何かと違って大して高くする必要もないんだが、と男は言う。
それが自分の今の状況にどう関わってくるのか、考えたくもない。


かつんかつんと音に合わせて、体に震動がある。
絞首刑の十三階段というのは、実際十三段というわけでもなかったらしい。


だから――階段は、続く。



「病室暮らしに嫌気がさして抜け出したお前は、たまたまこのビルに入り、たまたま屋上について、たまたま魔が差して――飛び降りた」



筋書きは語られる。

偶然だらけのお粗末な――とは思ったが、現実は偶然で構成されている物だ。
ならば現実的なのかもしれない、と思う。



「――さんざ殺してくれたお陰で、なれない肉体労働をする事になってしまった」


運が悪い、という。

それはこちらの台詞だ。