十一.似而非。
何処かで騒ぎが起こった様子もない。


その状況を認識した真庭蟷螂は、七実が恐らく重症であるという事実を――推察した。
正直のところ、そちらの可能性はかなり高かったのだ。
だから、ただの確認ではある。



「………………」


もう一つのサブの目的、今回の誘拐劇を企てた主犯の暗殺――ついでにやっておこうかと、蟷螂が社長室に向かった時。
そこまでに至る唯一の廊下で、血痕を見つけた。
傷口から出たにしては、随分妙な着き方をしている。



一番高い可能性は、彼女だった。



誰もいない事は、ここまでくれば既に気配でわかっていたけれど、一応社長室に向かってみれば。
荒れていて、そこには傷口から零れたらしい血痕があった。


しかし、あるはずの死体はない。





「……しかし、何故こんなところに」




監禁されていたらしい場所から随分と登ってきている。

どうやら認識を改めなければならないらしい――

そんな風に思いながら、今得た情報を仲間に伝える。





* * *







「ええと」



体全体が悲鳴をあげている。
それに耐えながら、何とか発声を試みる七実。
目の前には二人の女性――かなりの長身の女と、無垢そうな少女だった。



「大丈夫かい? まだ辛そうだけど」
「ええ、持病ですから」



持病だからと言って、大丈夫とは言えないけれど。



「どうしてあんな所にいたんです?」
「それは――」



何と答えるべきか。
普段の七実なら適当なことを言って誤魔化せたのだろうけれど、今はその余裕がない。
結果的に言いよどむことになってしまい、長身の女に微笑まれた。



「別に、いいさ。言えないんなら言わなくても」



一体何だと想われたのかは、わからない。
自分は今からどうするべきか――自力で戻るには時間がたちすぎているのだろう。
ならば、誰かに連絡をとって迎えに来てもらえるのが得策だ。

もっと早く気がつくべきだったろう。


別にその天才性とは全然関係はないのだけれど、七実は自分の方向音痴を軽視している節があった。




勿論拘束から逃れた時、薬を確認する意味合いで自らの持ち物は検査している――携帯電話は持っていない。



「すみませんが……電話を貸して、」



がくん、と意識が落ちかける。



「……いさい、あれほど子供を職場に連れてくるなと」
「いいじゃないか、社長。どうせ非常勤の雇われなんだからさ」
「すみません……うちっちの所為で」
「……まあいいさ」



再び霞み始めた視界に、



「ところで――その女は俺の知り合いだ。連れて行かせてもらおう」
「……ふうん? しかし、この様子じゃ」
「そいつの病気はかなり特殊でね……ここの設備じゃどうにもならんよ」



数十分前に見た、下種の顔が映った。