四.



自分の提案に納得したように、言葉を続ける蜜蜂。




「そう――そうですよ、それでいいじゃないですか」
「それはぬしに迷惑だろう」
「迷惑じゃないですよ! それに、前にも話しましたけど、僕の家、長屋ですから……狂犬さん――大家さんもいい人ですし、稼げるようになったらもう一間借りれば」
「いや……しかし」




それでは同じだ。
結局、頼ってしまう。






「狂犬さんは仕事の斡旋なんかもしてますから。蟷螂さんなら、大丈夫で「蜜蜂」





楽しそうに語る蜜蜂の言葉を遮るのは気が引けたが、声をあげる。
青年は首を傾げて、蟷螂の方を見た。
言葉を遮ることなど滅多にないのだ。





「私には、大丈夫だとは思えない」
「蟷螂さん……?」
「ぬしが思っているほど、私は出来る人間ではない」





幼少の頃から、ここしか場所を知らない。
会話が成り立つのは、知識を身につけたからだ。
学がある、などと褒められることもあったが、頭に「陰間にしては」とつくのが関の山。



頭脳労働が出来ぬ代わりに、肉体労働が出来るかと言えば、それもない。
筋肉は一切つけぬよう言いつけられている――酷く貧弱だ。







何も出来ない。









「ここに居れば――何も出来ぬ私にも、出来る事がある」






居なくたって、何にも変わりはし無いのかもしれないが――それでも。



自分に縋る腕がある。
自分に頼る瞳がある。
支えることが出来る――人間が居た。






「……負い目のようなものなのかもしれぬがな。自分が――」






よりにもよって、一番自由など欲していなかった自分が。
一番に、自由になる事への、負い目。











それは、しあわせになることへの?







「そんな事――」
「わかっている。自意識過剰な、思い込みだ――ただ、それでも」







彼らを見捨ててはいけない。
見捨てられることに不満はないが、見捨ててはいけない。
するしない以前に――出来ない。





「出来ぬよ、そんな事」
「そ、な……それなら、蟷螂さんは」





いつまで経っても自由に何かなれないじゃないですか、と蜜蜂は言う。







「自由など、必要ない」









そんなものには、何の魅力も感じない。
虚勢ではなく――事実だった。








「そんなの、」





そんなのかまきりさんがじゆうをしらないからいえることじゃないんですか。








蜜蜂の言葉は、確かに真実のようだった。