二. 「何か――用、でしょうか」 「……別に敬語を使う必要はないぞ」 「いや。一応、な」 そう言うと、鳳凰は苦笑して見せた。 真庭屋現主人、真庭鳳凰。 彼と蟷螂は、一応は幼馴染の関係に当たる。竹馬の友という奴だ。 とはいえ当然、世間一般の幼馴染とはかなり勝手が違うのだが。 鳳凰は、時期主人として店に連れて来られていて。 蟷螂は、その時から既に客をとって働いていた。 互いに、まだまだ少年というのも違和感があるほど幼い時分の話である。 鳳凰は蟷螂を座らせると、お茶を勧めた。 しかし用意してあった団子は、一向にこちらに遣す気配がないので、恐らく自分用なのだろう。 「で、何用だ――鳳凰」 「いい知らせだ」 いい知らせ。 そんなものを鳳凰の口から聞いたことなど、長い付き合いだが一度もなかった。 いつも凍てつくような輝きを持っている男の目は、僅かに曇っているようでもある。 それは、彼が成熟する以前――まだ幼かった頃に見せていた表情に、少しだけ似ていた。 良い知らせといいながら、どうしてそんな目をするのだろうか。 疑問に思いながらも口に出さず、鳳凰の言葉をじっと待つ。 「×××、×××××××」 「え?」 「××××××××」
「…………っ」 また勝手に頁が捲れてしまった。 先刻から少しも、本の内容が頭に入らない。 視覚的にはあるはずの文字もすり抜けていくばかりである。 これではただ見ているだけだ――頭を落ち着けようと試みた読書だったが、どうやら失敗のようだった。 心の方が乱れてしまっている。 丁度良く蝙蝠が話しかけて来たので、素直に本を閉じる。 少々の雑談をした後、沈んだような声を聞く。 「かーまき、り」 「どうした」 縋るような声音と裏腹に、下から見上げる蝙蝠の視線はこちらを拒絶するような色味を帯びていた。 どちらにしろ、酷く弱弱しい。 「なんでもない」 彼はよく、見透かされるような嘘を吐く。 それがわざとなのかどうなのか、よくはわからなかった。 そしてそんなことは、必要のないことなのだ。 聞く必要も、知る必要も。 「来るか」 そう問うと、蝙蝠は黙って蟷螂の膝の上に頬を乗せた。 何しろされた覚えのないのでよくわからないが、ぎこちなく彼の頭を撫でる。 経験ではなく情報として知っていた行為だったのだけれど、蝙蝠は十分に安心したようだった。 「ごめん、な」 「構わぬよ」 思い上がりなのかもしれない。 しかし、自分はここを離れるわけにはいかないのではないだろうか。 彼らを――守るためには。 |