十五.



「出て行ってもらおう」



久しぶりに会った竹馬の友は、そう切り出した。



「随分はっきり物を言うな」
「おぬし、我の留守中に帳簿を持ち出しただろう」
「ああ、持ち出した」
「主人の留守中に勝手に物を持ち出す者などいても迷惑だ。さっさと出て行け」



そう言って何かを放られる。
受け取ってみると、普通の町人の着物のようだった。
これを着て出て行けということらしい。



「……ぬしは昔から、建前を見つけるのが上手いが嘘が下手だな」
「何の話だ」



渡された着物の懐を探ってみると、固い感触がある。
取り出してみると白い包みで、大方中身は金だろう。



「餞別にしては待遇が良いな」
「………………」



鳳凰は少しだけ気まずそうに口をつぐんだ。



「ぬしが一刻で稼ぐ程度の小金だ」
「これがあれば三ヶ月ほど食うには困らないのだろう」
「……何故そんな事を知っている」
「私は客の話を聞くのが上手いとよく言われた」
「それを言ったのは我だ」
「ああ、そうだったか」



これは返すよ、と白い包みを差し出す。



「金も何もない状態で追い出しても野垂れ死ぬだけだ」
「大丈夫だ」
「何だその楽観は」
「この間と立場が逆だな」
「全くだ」
「蜜蜂のところに行く」



鳳凰の動きが止った。



「……ここ最近、何かあったのか?」
「どうしてそう思う」
「それ以前のおぬしは人を頼ろうなどとしなかったからだ」
「さあ――人間、頼られるほうが嬉しいこともあるのではないかと思ってな」



それは自分がそうだったように。



自分の考えている事に皆が共感していると思いこむのはただの傲慢だと思っていたけれど。
自分の考えている事は自分しか考えていないと思い込むのは、ただの自意識過剰だ。




「……ならばそれは蜜蜂に渡せ」
「いいのか?」
「この間金を払ったのに途中で帰っただろう。釣りだといえばいい」



相変わらず、人の良すぎる主人だった。
それでもやっていける才能があるのは、いいことなのだろう。



「鳳凰――蝙蝠はどうした?」
「逃げられた。追ってはいるが捕まるかどうか」



しかし大してやる気もなさそうである。



「おぬしは何か知っているのか、蟷螂」
「さあ――知らぬよ、鳳凰」




何だかやけに嘘くさく、顔を見合わせて笑いあった。
そして自分は立ち上がる。


「幸せになれよ」と、どこかで聞いたような台詞を鳳凰は言った。