十四.



自分にとって蜜蜂はなんなのだろう。
少しばかり真剣に考えてみる。


友人なのは間違いない。
大切なのも間違いないだろう。
好きかと問われれば大きく頷く。
弟の様でもあるし、子供の様でもあるし。


蜜蜂の言っていることを、本気でとらなかったわけではない。
本気で言っているとは思っていたが――その本気は気の迷いだと、断じていた節が自分にはある。



自分と一刻過ごすだけで、単純に三か月分の食事代をふいにする。
それがどれほど危機的なことか、実感はわかなかったが――何となく、思うところがなかったわけではない。
気の迷いで出せる金額でない事は、理解できた。



「蟷螂ー」
「蝙蝠か?」
「正解」
「何か用か?」
「お別れ、言いに来たぜ」



背後から現れた蝙蝠は、少し照れくさそうに笑う。



「お別れ――買われでもしたのか?」
「んにゃ。こっから逃げるっつーこと」
「逃げる? 独りで?」
「逃がしてくれる奴がいる」


本気で言っているらしかった。
それが少し意外だった。


「意外だな」
「何が? 俺がここから逃げることが?」
「いや。ぬしがそんな事を私に話すほど、信用されていると思わなかった」



鳳凰に言いつけるとは思わないのだろうか。



「きっついの。信用はしてないけどさ――」



あんたになら裏切られてもいいと思ったんだ、と蝙蝠は矢張り照れたように言う。



「それを信用と呼ぶのではないのか」
「知らねーよ。言葉付けに意味ってある?」
「ないだろうな」
「だろ。兎に角――俺は出て行く」
「そうか」



さようならとでも言うべきなのだろうか。
それとも、今までありがとうとでも?



「幸せになれよ」
「努力するー」



連れ戻されたらそん時はまた頼むわ、と言って蝙蝠は駆け出してしまった。



「蟷螂」
「何だ」
「あんたもう少し、客観的に物事見たほうがいいぜ」



遠くからの声。




「あんたが思ってるより、皆あんたの事好きだからさ」




さて、川獺からでも聞いたのか、どうなのか。
そんな風な言葉を、蝙蝠は残していった。