八.




「っやぁ……!」




濡れた声が耳の奥に響いた。
搾り出すような声と裏腹に、その表情は恍惚としている。
目尻からは生理的な涙が零れだし、口元は快楽につりあがっている。


誘う様な目元は正しく娼婦のそれに良く似ていて、






「………………」
「ぁ……んっ」











何だか、急速に冷めた。










しかし体の熱が止まる訳もなく、そのまま行為を続ける。
挿入する直前、耳元で微かに囁いてみせた。




「後悔、しないのですか――」



今更。
唇だけでそう言った彼が心底哀しく、無理矢理に口付けて言葉を消す。




「っぁあ……!」






最後に一際大きく反って、彼は達したようだった。









* * *













「他の男とも、こうしているのですか」
「お前さ――おれ相手にそゆこと聞くの、野暮だと思わねえの」
「思いません」






二人とも寝転がったまま、腕の中に蝙蝠を抱きつつ、喰鮫は飄々と言った。
後少しで時間である。

そうすれば、蝙蝠の中で、喰鮫はまたただの他人に分類されてしまうのだろうか。
いや、今の今までだって、きっと彼の中では自分はあくまで他人なのだろう。

いつも彼を買っている、男達と同じように。








「知らないほうが、お互い楽しいと思うぜ、おれは」





それは一種の肯定だった。


当たり前だ――そんな事、とっくに知っている。
知っているからこんなに、難しいのだ。








「楽しいのはわたしだけではないですか?」
「お前が楽しけりゃおれも楽しいっつーの」
「本気で言ってくれれば嬉しい台詞なんですがね」
「本気だって」
「本意ではないのでしょう」
「まあね」






「助け、ましょうか」








小さく身震いをする、彼。
ただ、笑っているようだった。







「何だよそれ。どういう意味だ?」
「ここから出して差し上げましょうかという意味ですが」
「今までにおれにそう言った奴、」





ひい、ふう、みい。
指を上げながら声を出して、しかし直ぐに両手だけでは足りなくなってしまった。









「……悪い、覚えてないわ」










多すぎてさ。
彼の自嘲的な表情を見るのが嫌で再び口付けると、矢張り彼は抵抗しなかった。