五.




客の途切れ目の休憩時間、座って読書をしている蟷螂の隣に蝙蝠は寝転んでいた。
暇だったので話題を切り出すと、蟷螂は黙って本を閉じる。





「最近あの親父こねーよな」
「……聞いていなかったのか?」
「何が」
「あの男ならば死んだぞ」
「はい?」




蟷螂の言葉に首を傾げる。
しかししっかり理解はできていた。


そうか、死んだのか。





あの男のことなど大嫌いだったはずなのに、何処か空虚な気分になる。
それは切なさなどではなく、単に自分の側に死を感じてしまったからなのだろう。
胸に木霊する、諸行無常の響き――万物流転、か。



そこまで考えて妙に切ない気分になる。
自分のこの境遇もいつか流転するのだろうかと。







「ここに居るとよく聞こえぬがな……闇討に会ったそうだ」
「まあ確かにそんな顔だったな」
「そうか」







どんな顔だ、という求めていたつっこみは入らなかった。
まあ蟷螂なのだから仕方があるまい。






「あーいい金ヅルだったのにな」
「まあ、ぬしならば一人抜けたところで問題あるまい」
「……さらっと言っちゃうとこが嫌味なくて逆に嫌味だよなー」






そういうと蟷螂は首を傾げた。
しかし、彼だって十分すぎるほどの客をとれているのである。
そもそも蝙蝠達三人が親しくなったのは、単に店の中での地位が互いに高かったからなのだ。
この場合の地位が高いというのは、多く客がとれている――多く金を稼げているという事。





いやらしい。






けれど、そういう世界だった。






「かーまきり」
「どうした」





低い位置から彼を見上げる。





「なんでもない」
「………………」






何か言いかけた口が閉じられた。
言葉は時に意味をなさない事を、よく知っているのだろう。






「……来るか?」
「うん」







幼子のような口調でそう言うと、口調に違わず蟷螂の膝に頬をつけた。
母親に甘える子供のように、ただ身を任せ温もりを感じる。
蟷螂もまた何も言わず、優しく蝙蝠の頭を撫でるのだった。
長年の付き合いで築いた、依存と言うには弱すぎる依存関係。
詮索はできない。したくもないしすることはない。

だからただ、支えあう。







「……ごめんな」
「構わぬよ」






きっとこのごめんの意味すら、彼は思考しないままなのだろう。
何があったのかとも聞かず、ただ受け入れる。好きだし感謝もしている。



だけど――それでも。





信じられない。






口には出せない本音を、小さく呟いた。