十二.



久しく、奴の顔を見ていなかった。
裏切られたような、なんともいえない気持ち。
そんなはずはないのに、自分の身体を心ごと二分されたような気分。





殺したのだと、言った。




おまけだったならまだいい。
だけれど、本気で助けるために殺したのだとしたら――例え狂っている思考回路でも、そうだったのだとしたら――胸糞が悪い。
自分の為だなんて、絶対言って欲しくなかった――ふざけるな、おれの所為にするなと思う。




だけど確かめようにも――やっぱり奴に、会ってはいない。






「……ごめんな」
「謝るんじゃないよ。あんたが悪いんじゃないんだからさ」


鴛鴦はいつもどおりの調子で言ってから、蝙蝠の肩を叩いた。



「半分以上自業自得だったんだしね――痛い目見て、少しは懲りてればいいけど」



もっとも、懲りても二度目をやらないとは思えないけど、と端正な顔を少ししかめる。




「半分以上って事はないだろ……仕事だったんだし」
「はん――それが半分以上だったのさ。今日の主な用件はそれ」




別に、演出効果を狙うわけでもなく、焦らす風でもなく。
鴛鴦は、あっさりと言った。




「喰鮫は、あんたの客――三人殺した、下手人じゃないのさ」
「は?」
「まあ、正確に言うと一人は殺してるんだけど――そっちはちゃんと連絡がいってた」
「え、いやちょっと待てって――連絡?」





何処から。とりあえず近い疑問から出して、混乱解決に努めてみる。





「名前なんかないから何処からって聞かれても困るんだけど……始末屋っていうんだった?」




風の噂である。
蝙蝠たちが努めているこの店、裏の怪しい人脈を――それもかなり強いのを――持っているという話。
風の噂で――噂だと思っていたのだが。





「ていうか、殺してないって、何で」
「残念ながら全うな情報網から来た情報じゃあなくってさ――その所為なんだけど」




死んだ人間達は、どれも一様に刀傷を負わされていた。
しかし、その太刀傷は――どれもバラバラだったのである。



一つはあんまりにも綺麗で見事すぎたし――恐らくは腕の良い侍がやったのだろうと判断できるのだが――
一つはあんまりにも杜撰で適当すぎた――こちらは間違いなく素人の仕業である。








「あんたが輪の中心にいるなら、累が及んじゃ不味いだろうって先手を打ったんだけど――ただの偶然だったみたいね」





だから謝るのはこっちの方、と鴛鴦は言った。





「ごめん」
「……うっわ」
「……どしたの?」
「きゃはきゃは、どうしよ鴛鴦」





勘違いでマジ切れしちゃった、とそう言うと。
勘違いならそのうちどうにかなるわよ、と存外楽観的な答えが返ってきた。