「あんまり――いー兄にはこっち側に入って欲しくないんです」






戯言遣いの部屋から脱出後。
階段を下りきったところで、声を掛けられた。




見れば――血の凍るような美少年が、そこに立っている。






「こっち側? っていうと、裏の話ですかね」
「ですね。暴力の世界の話――ただでさえいー兄は巻き込まれ体質なんですから、一応線を引いとかないと」
「不可侵条約みたいなもんですか?」
「そうですよ。いー兄を、巻き込まないで下さい」





少女は少し困ったように首を傾げた。





「愛されちゃってますね、戯言遣いさんは」
「ええ。家族ですから」
「家族」





照れくさそうに笑う。






「素敵な響き」
「でしょう? やっと手に入れた、家族なんですよ」
「ふむ――はは。あんたの要求を、とりあえず聞いときましょう」
「近づかないで下さい」






美少年は丸腰だった。
丸腰にも関わらず、殺気に酷く似たものを発している。







「――答えは、いいえですね」
「いいえ、ですか――薄野 さん」






笑顔の死神。
笑顔の始末番。







「僕は貴方が、生きてはいけない物のような気がする」
「………………」
「貴方を透かすように――虚像みたいですけど、それでもはっきり――死相が見えます」
「はは」





少女はどん、と重たい音をさせて、白い大きなバッグを地面に落とした。
それからくいっと帽子のつばを持ち上げる。







「あんた死神ですか。ふうん――死相か。なら別に構わないんじゃないですか。これから死に行く人間が、何したって」
「いー兄は優しいですから。きっと貴方みたいな人が死んだって、傷つくでしょう」
「大丈夫です。戯言遣いさんの傍では死にません――彼を巻き込みもしません」
「そんな事断言できるんですか?」







「私が守ります」








当然の事のように、少女は言った。自然に――不自然なく、自然に。



「なんだか戯言遣いさんといると――零崎君の言葉を借りるなら、何かがどうにかなりそうなんですよ。だから私は守ります。完全無欠に、彼も私も傷つけずに」




言葉を止めて、断言する。














「私の正義に――かけて」












青い瞳が、闇の中でもはっきりと分かった。



「……そう簡単に言わないほうがいいですよ、正義なんて空々しい言葉」



少年は呟く。負け惜しみのように――呟く。
対する少女は、勝ち誇ったように笑った。




「はは。わざとやってるんです――それじゃ石凪君。あと上部から滅茶苦茶痛い殺意を贈ってくるあんたも」








上を向いて、殺意の方向に手を振った。



「ブラコンも適度にしないといけませんよ? ヤンデレ認定されちゃうから」





それから下に落とした白い鞄を再びかけて、少女は颯爽と歩き去った。








Managers may murder merry murderess of mirror to melt mild master's mentality in midnight

(陽気な鏡を・壊すのだろう・真夜中遅く・彼のため優しすぎる彼のため)