「別に敬語じゃなくてもいいのに。零崎によると、同い年なんだろ?」 「あーなんていうか。これただ単に慣れてないだけですから、気にしないでください。慣れると敬語とれます。懐くと更に馴れ馴れしくなります」 あがりこんで、畳の上に無造作に座る。その際置いた白いバックが、かなりの重量だとうかがわせるような音を立てた。 斧――始末番。死刑執行人。 「さっきの彼は、悪人だったってわけか」 そう呟くと、返事がすぐに返ってくる。 「悪いが90で良いが10ですかね」 「…………良い部分あるんじゃん」 出された水道水を一瞥して、それでも口に含む ちゃん。いい子だった。 「それは別に、結果として悪いが80になるとも――限らないだろう」 「それはそうですよ。ただ、なんてーか……うん、良いが0の、まるで物語にでてくるみたいな悪人は――中々存在しないのが現状だったりしまして」 「そりゃ、そうだろう。少なくともぼくは良いが0の悪人なんて――」 一人白髪で緑のサングラスをかけた変態が記憶の底で手を振ったけど、無視。 「――見たことも聞いたこともない」 「私もないですよ。大抵人間、いいところが一つぐらいあるもんでしょう」 「それでも君は、殺すんだね」 「殺しますね」 それは。 「正義の為にか?」 「戯言遣いさん、すっげー嫌そうな顔してますよ」 「だって嫌じゃないか。正義って。いや、正義はちょっと――」 幾らなんでも空寒過ぎる。 「正義の為です。正義守って、愛して、貫く為」 はっきりと、澱みなく迷いなくそういった彼女が――一瞬、酷く憎くなった。 どうしてこの子は、こんな下らなくって歯の浮くような、おぞましい言葉を簡単に口にするんだろう。 そうじゃないだろう。 人間は、正義なんか貫くために――生まれてきたわけじゃない。 「それって要するに――正義の所為にしてるって、ことだろう」 「はは。ご名答です」 薄野 は楽しそうに答えた。 前髪をかきあげる仕草――青い両目がはっきりと見える。 「正義の責は正義が負う。その他の責は、私が負う」 「………………」 「哀川潤さんのように、請け負うなんて出来ませんが――負うぐらいなら、できますから」 そこで――ぼくはにわかに理解する。 正義は何も救っちゃくれないこと。 曖昧で、頼るには脆弱すぎる存在だと、いうこと。 そして誰も――そんなものは求めちゃいないということ。 彼女は全部全部分かってて、それでもこうして――生きていること。 こうやって生きるしか、ないこと。 「……それって、重たくないの?」 思わず漏れた言葉に、彼女は首をかしげた。 「は? え? あ、斧?」 「あ、っと。うん、斧」 「割と鍛えてるんですよ、これでも。いっつも長袖だから、中々ばれないけど」 「……うむ」 帽子越しに、彼女の頭を軽く撫でてみる。 「くすぐったいですよ」 そう言って笑った顔は、やっぱり何処か、あいつに似てた。 |
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