薄野
は、依頼で人を殺さない。 彼女が殺すのは、大部分が悪人であるのだけれど――別に世の為人の為に動いているわけではないらしい。 言うなら、正義の為。 嘘くさい台詞である。彼女自身もそれは自覚しているのだが。 まあ、それはともかく――依頼で人を殺さないというのは、つまりは人殺行為によって収入を得られないというわけで。 「やあ ちゃん! 今日も真面目に勤労少女なんだね!」 「お。こんにちはー零崎さん」 コンビニエンスストアにてバイト中の少女。 ぶかぶかの服もぶかぶかの帽子も、ぶっそうな斧も何もなく。 ごくごく普通な少女――特徴と言えば目が青いことぐらいの少女。 薄野 、ぶっちゃけフリーターライフを満喫中だった。 「ところで人識見なかった?」 「あーどうだろ。何か一品買っていってくれたら思い出しそうかもしれない」 「……ふふ。そういう駆け引きは嫌いじゃないよ」 すぐ傍にあった新聞を無造作に取って、レジに置く零崎双識。 「零崎君なら一時間に来たよ。チョコレート買って行った」 「……一時間か。だったらもう逃げてやがるな、あいつ」 彼女がいると何故か売上があがる――そんな妙な噂が近隣コンビニ関係者にまことしやかにささやかれている だったが、その話のオチは只単に、普通にコンビニはいると何かと面倒な輩が頻繁に利用しているからにすぎない。 例えば、気を抜いたら人を殺してしまう、顔面刺青の白髪少年とか。 例えば、両手が塞がっているため普通に買い物をすることのできない殺戮奇術の双子とか。 彼女と会うには、勤務時間にコンビニにいくのが一番いい方法なので――世間話のついでに、何か購入していくとか。 普通の人脈だったら、それでも売上に影響することはないのだろうけれど――如何せん人脈は広くて、深かったり浅かったり。 そんなわけで広くて深い人脈の一人、零崎双識は長い足を折りたたんで、レジの上に腕をついた。 「寝不足はよくないよ?」 「あ、やっぱ分かる? まずいね、お客さんにばれるようじゃ」 「うふふ。その奉仕精神はとても素敵だけど、隠してればいいってもんでもないよ」 「ふん?」 少女は少し不思議そうな顔をした。 双識は言い含めるように、少女に話しかける。 「勘違いしちゃ駄目だ。私は君をとがめてるんじゃなくて、心配してるんだからね」 「そっか。はは――ありがとう」 少女は特になんとも思っていないような口調で、明るくそう返した。 「……トキなんかを見てても思うんだけどね」 その様子を何故か哀しげに見つめると、双識は続ける。 「自分の心に沿わない信念なんてのを貫くのは――とても、つらいことなんじゃないのかな」 少女の表情は変わらない。まるで笑みを崩したら、何かが変革してしまうように。 それを厭うているように。 「言ってる事は分かるよ、零崎さん。正しいことだっていうのも、わかるよ。だけどね――それでもどうしようもないことって、あると思うんだ」 「……まあ、そうだね。私が言えることなんて、そうそう無いからな」 双識は苦笑する。 もまた、笑う。 それでも最後に――男は呟いた。 「君はたぶん、このまま正義を求めるなら本当に――壊れてしまう、よ?」 「求めなかったらすぐ壊れるんだよ――だったら、やっぱり、長生きしたいじゃん」 腹の探りあいのような、会話が続いて。 それを誤魔化すように、くだらない世間話をして。 「それじゃあ、 ちゃん。頑張らないようにね」 「はは――努力する」 |
Please pray for poor princess and please pardon if philosopher pity person