「……おはよーござい」 突然そう呟いた少女の方に、零崎軋識はゆっくりと顔を向けた。 「おはようって……やけに喋んないと思ったら寝てたっちゃか」 「夢見てた。私と軋識さんの運命の出会いを回想してた」 「妙な回想シーンいれてんじゃねーっちゃ。ていうかどの辺りが運命っちゃか」 「だって偶然同じビルに潜入して偶然私が寝てたところに軋識さんが来るなんて軽く奇跡だと思うー」 「なら欲しくなかった奇跡っちゃね」 「酷いなあ」 そういうと少女、殺し名第四位『始末番』――薄野武隊の若き武隊長にして特攻隊長、現在進行形で栄誉ある孤立中の薄野の中の薄野、絶対的にして絶望的な正義主義者――薄野は立ち上がって伸びをした。 妙に仰々しい説明文が続くけれど、要するにただの変人だと軋識は解釈している。それに齟齬があるなら変態だ。 そういえば零崎一賊の切り込み隊長、零崎双識も随分と変態で変人だけれど――もしかしたら特攻隊長なんてのは変人変態の類がなるものなのかもしれない。軋識は自分の結論に少しだけ頷いた。 「軋識さんとこのソファは妙に寝心地がいいねえ。なんか仕組んでる?」 「仕組んでねえよ」 「ふうん。怪しいなあ」 適当に怪しんでから、少女は何かを探すように首を回した。肩口までの黒髪が揺れる。 彼女の特徴たる青い双眸は、大きめの帽子に隠れて見えない。それに少しだけ安心する軋識。 青い瞳は、いただけない。 赤でも白でも構わないけれど、青だけは不味かった。 「私の斧はー?」 「ん。あのイカれた斧なら玄関っちゃよ」 「釘バットで一本足殺法とか巫山戯てる男にイカれたと言われるのはちょっと……」 「別に俺が名づけたわけじゃねーっちゃ。大体愚神礼賛は釘バットで正解っちゃけど、お前のそれは斧かどうかも怪しいっちゃ」 「私が斧だって呼ぶから斧なんだよ。あーでもなんか仇名欲しいかも。愚神礼賛とか自殺志願とか」 「仇名って言うな」 そこでくい、と瞳を晒す少女。 青い目が、こちらを捉えた。 少し、居心地が悪い。 「じゃあ、そろそろ、行くね」 「……今日もまた、仕事っちゃか」 「はは。仕事って言うのかな。生きがい……でもないか。存在意義だね」 下らないと思う。 正義なんて――本当に下らない。 正しく正義を貫くつもりならば、少女はまず真っ先に自分を殺すべきではないのか。 自分は――殺人鬼なのだから。 間違いなく正義とは沿わない存在だろう。 つ、と軽いストレッチをしている少女に目を向ける。 彼女があの大斧で――自分を殺そうとしたら。 殺せるか。 それとも、殺されるか。 そこまで考えて―― 殺されても構わない、とか。 まるで青い彼女に対するのに似た感情を――抱いた自分を、少し嫌悪。 「ばいばい、さよなら軋識さん。ソファ貸してくれて、ありがとう」 |
Correct clown can't change to crazy crown