昔の話である。



斧槍の、両端に斧の刃の部分がついたもの――とでも表現すればよいのだろうか。
いや、そもそもそんな斧は存在するのか軋識は知らない。
しかしその巨大な斧を――少女は軽々と、持ち上げている。


「到着みたいですね。お疲れ様です」


少女が手で、どうぞと言う風に扉を指し示した。
無言でドアノブに手を掛けるけれど――矢張り仕舞っている。
仕方がないので、蹴って扉ごと外した。



「あ……」




振り向いた男――恐らくは社長の表情は、意外な事に怒りを表している。






「また君か――ここは子供の遊び場じゃないといってるだろう。帰りなさい」




どうやら少女に言ってるらしい。
少女は飄々とした様子で、彼に話しかけた。





「だって社長さん……忠告したっていうのに、あんた全然変わりゃしないじゃないですか。あくどい事、ばっかして」
「は……子供の遊びに付き合うほど暇じゃないんだ――警備員を」
「遊び、ねえ」





少女は帽子を外して、軋識の方を見ずに差し出す。






「すみません。持っててください」
「あ、ああ」






かん、と音がして、見れば柄が真中から外れている。
これで――斧が二本になった。
その斧を、交叉させるよう構えて、一瞬で男の目の前に降り立つ。





男の目に、遅すぎる恐怖が映った。





「私は薄野。所謂始末番――死刑執行人です。あんたの死刑は確定されました」
「な、おい待――」
「あんたに発言権は認められてません。私に着言権もありません。ただ正義の為――」




少女は笑う。





「お命、頂戴いたします」






振り下ろされた斧のとおり。
十字を描くように、男から血が、噴出した。




「はは」





少女はかん、とまた斧を元に戻すと、軋識の隣に返ってきた。
青い瞳で、こちらを見つめる。
よりにもよって、彼女と同じ――碧眼で。




「どうもおつかれさま――零崎の、お兄さん」








Accident arose after advice



(確かに忠告いたしました・起こりは知りません・少しの事故だと諦めて・どうかどうか安らかに)