十全恋愛逃避行。2.

「性行為に愛なんて必要ないだろ」

ぼくの言葉に、隣で零崎が体を動かしたようだった。
真白なシーツに皺がよる。
皺一つ無いシーツが乱れていくのってなんか官能的だよな、と思った。

「何をするにも愛なんて必要ないよ。勉強にだって、結婚にだって、愛は不必要だ。愛があっても就職には失敗するし、愛があっても戦争には勝てない。愛は触れない。愛は食べれない。愛が必要なのは恋愛ぐらいで、それは愛そのものなんだから当たり前だろ？」
「かはは。うん、まあ、とりあえず傑作なのはわかったけどよ」

それ明らか事後に言う台詞じゃねえよな。
零崎は苦笑する。

「情緒ねー奴」
「まあね」
「何でそんな戯言言ってるわけ？」
「そりゃ、君が」

君が、聞くから。
愛してるかなんて、聞くから。
誤魔化さないといけない気がして。

愛なんかないんだよ。
愛してなんｌｓいんだよ。
愛なんかなくてもいいんだよ。
そういいたくて。

「俺が？　何だよ」
「……戯言だよ」
「何かお前のそれ便利だよな。話は濁しやすいし。小説で次に言う台詞考え付かなかったらとりあえず言わせときゃ何かいい感じにまとまるし」
「……一体何の話してるんだ？　大体君のだってそうだろ」
「傑作？」
「傑作」

まあこの場合傑作でもねえんだよな、と零崎。
赤く大きい瞳がぼくの方に動く。
へらへら笑ってるくせに、目だけは真面目だった。
そういうのが、凄く、嫌だった。

こいつはぼくの事が好きなんだろう。

自惚れでなく、淡々と思った。
何しろぼくとこいつは鏡あわせで、互いに互いの代替品で、ぼくの代わりはこいつで、こいつの替わりはぼくで。
でもぼくから見て零崎という存在は零崎の他にはいなくて、強いて探すとするならそれはぼく自身という事になってしまう。

それはあまり愉快でもない想像だった。

まあ、どうでも、いいんだけど。
こいつがぼくの事を好きなら、それにこうして付き合うぐらいはしてやってもいい。

戯言だけど。

端的に言えば、嘘だけど。

「いーたん」

零崎が次に何を言う気なのか何を言おうとしてるのか何を言いたいのか全部わかってて、だからぼく返事をしなかった。

ぼくはこいつの事なんか、好きじゃない。
愛しても、いない。

本当に言いたい事の変わりに「さみー」と言った零崎は、ぼくにぎゅ、と抱きついてきた。
その小柄な肢体は震えていて、本当に寒いんだな、と思って。

でももしかしたら震えていたのは、ぼくの方だったのかもしれない。

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