十全恋愛逃避行。2.
青臭くて嫌になる。 好きで、好きで、好きで、どうしようもないぐらい愛してる。 だけど言葉にすると何かが崩れそうな気がして、言葉にすると全てが嘘みたいな気がして、何も言えなかった。 思春期の餓鬼か、俺は。 「……餓鬼っつーか殺人鬼なんだけどなあ……」 「何か言ったかい?」 「いや、いーたんの事愛してるぜって言っただけ」 「ふざけてるな、君は」 冗談でしか言えない。 冗談としか返されない。 いつもと同じ、いつもどおりの日常。 なのに何故だか焦燥する。 冗談としてしか受け取ってくれないあいつに腹が立つ。 嗚呼、もう俺こんなに限界来てたんだなあ、と。 よく我慢したよ。 だからもう、いいだろ? 「ぜろ……っ」 だから、まるで、餓鬼みたいに、がっついて。 口付ける。強く深く。奥まで届くように。 気をとられたあいつの隙を見逃さないようにねじ伏せて、奴のそれを撫でる。 左手はその間にも胸へと伸びて、緩やかに指を這わせた。 「っ……は……ぁあ……んっ」 つい先ほど一度終わったばかりだったのだ、体はいつもより早く反応する。 まさか二回目があるとは思わなかったのだろう、奴は無防備そのもので。 もっと焦ればいい。 もっと求めればいい。 「んぁ……ぁあっああっ」 筋肉の硬直を見て取って、刺激を止める。 高ぶらせて、高ぶらせて、それでも絶頂に何か達させない。 もう仕返しなのか何なのか、わからなくなった。 「んぁ……やあっ……」 「嫌なのかよ」 じゃあいいよ、と奴から手を離す。 背を向けて、もう一度寝転がった。 まるで気まぐれ。 まるで戯言。 「逃げてんじゃねーよ。ばーか」 馬鹿、とか阿呆、とか、そういう知性の欠片もない言葉しか浮かばない。 俺は怒ってるんだな、と冷静に分析。 背中に熱い吐息を聞きながら、目を瞑って――ベッドの揺れる感触に目を開ける。 奴の手が俺の顔の両側にあった。 頬が蒸気していて、眉根がよっている。 困惑してるような顔だった。 まるで、どうしたらいいのか、わからないみたい。 そうかよ。 俺ももう、どうしたらいいかわからないよ。 「っ……誰が、にげてるって」 「実際逃げてんだろ」 「馬鹿は、君……っだ、ろ」 「文脈訳わかんねえっつの」 馬鹿でへたれでビビリで臆病者で卑怯者で弱くってどうしようもなくて。 悪態を思いつく限りに並べてみるけど――もうどうしようもない。 だって、依存してる。 「っ……あ……ぅ……」 足の膝で、奴のそれを刺激する。 腕の震えが一層激しくなった。 体勢を維持できずに倒れこむ奴を抱きとめる。 そのまま刺激を続けると、足に熱い何かがつく感触。 同時に、奴が弛緩するのがわかった。 また、目を瞑る。 こんな事したって虚しくなるのは、わかっている、つもりだった。 「っ」 殴られた。 まともに痛い。 「馬鹿は、君だ」 そういう奴の顔はいつもと違う。 目が薄暗く光っている気が、する。 いや、涙の所為、です、よね? 否定するように、噛み付かれた。否、キスされた。 進入してきた舌が口内を犯す。 息が出来ない。 あ、こいつキレてるんだ――と蕩けそうな頭で考える。 「絶対、泣かしてやる」 長い長いキスの後で言い切った男の声は鳥肌が立つぐらい怖くって。 ああ、だけど、やっと始ったような、そんな気が、してた。 |