【真庭鳥組】 「絶対に、礼は言わぬ」 痛みで口を聞けない時間が何時間か続く。 痛み止めを打たれ、漸く喋れるようになった姫君は、開口一番そう言った。 「小生達は別に義賊ではありませんからな。礼などいらないが、報酬は頂きますぞ」 「こちらです」 姫君に付き添う少女は、神妙にお金を差し出す。 「おお。ちゃんとお金持ってたんだね」 「失礼だな」 使う用途がないから溜まる一方だったのだ、と姫君は言った。 幾許か、自嘲気味にも見えた。 「腕――無いの大変やと思うけど?」 「妙な気分だ――神経は残っていて、確かに腕を動かしているつもりなのに――腕が無い」 「その辺り、もう少し詳しく聞かせていただけますかぁ?」 「貴様は本当に遠慮を知らぬな……」 「夜鷹には言われたくねぇと思うぜ」 「別にどうでもいいけど、すぐに発った方がいいんじゃない? はい、これ。うちの医療班が書いてくれた手引書」 「手引書、とは?」 「切った腕の世話とかだよ。まあ綺麗に切ってあるから、大丈夫だとは思うけど」 「……お世話になります」 「金貰ったから、それはオマケで色つけてやっただけだけどな」 「まあ、頑張ってくださいよぉ……折角生き返ったんですからねぇ」 「一度死ねば――二度目はそう簡単にはいかぬさ」 出立の時、「足だけでも残ってよかった」と姫君は言った。 そうして自分の足で――進みだした。 「やっぱり研究と言えば人体実験。これに限りますねぇ」 「こ、怖い事言わんといてくれる!?」 「他にどんな薬作ってんの?」 「知りたいですかぁ?」 「う「世の中には知らない方が良い事もありますぞ、懸巣」 「何か思うんだけどさ」 「何やの、野烏はん」 「出番偏ってない?」 「……個性の違いやない」 「ていうか、俺の出番少なくない?」 「仕方ないですよぉ、野烏。つっこみって二人いるとどっちか一人を重宝しがちですからねぇ」 「そうか……君か」 「目が怖いっ! 黒鳥はん余計なこと言わんとって!」 「あ、いや別にいいんだけどね。つっこみとか正直面倒くさいし……」 「つっこみやろ!? 個性捨てんといてや!」 「うふふふ。楽しいですねぇ野烏は。どうですぅ? 今度一緒に黒い鳥同盟でも組みませんかぁ?」 「何の同盟!?」 「皆サンに幸せを運ぶ同盟ですよぉ」 「それは青や!」 「ていうか椋鳥君、そのつっこみ駄目だからね」 「ねえ、夜鷹さん」 「……何だ」 「夜鷹さんなら、どういう選択をする?」 「――黒鳥の選択肢の中でか」 「うん」 「愚問だな。貴様の下等な脳味噌でも考えれば思いつく。私様に聞くな、貴様で考えろ」 「えー」 「まあ、俺なら死ぬわな」 「へえ? その心はなんなんですかぁ、喋鳥? 是非お聞きしたいなぁ」 「四肢が無いんだったら、お役に立てないだろ」 「誰の?」 「鳳凰様に決まっておろう。たわけ」 「そこは夜鷹が答えるのですな」 「結構人数を使っちゃったね」 「結局こうなる運命だったのですからな。仕方がないかと」 「うふふふ。予定調和ですねぇ」 「まあ、報酬も増えた事だし――良かったのだ」 「……別に全員で見送りに来る必要はなかったのではないですかな。先の自分の言葉ではないが小生達は義賊ではないのだが。全員で幸せな結末などと言う茶番は止めておきたいものですな」 「まあ俺らが出たにしちゃあ随分、人死が少なかったが」 「結局私が殺した護衛の男ぐらいの物だろうな」 「そういえば黒鳥、何時ぐらいからあの話考えてたの?」 「えぇ? 先発組が入って直ぐに入ったのは、喋鳥や夜鷹より先に任務をしたら二人が嫌がるかなぁと思ってぇ」 「性格悪!」 「この性悪似非科学者! 闇に滅せよ!」 「そしたら入れ替わりとかいう古典的で小賢しい技を使ってくるからぁ」 「今正に古典の時代なんやけど……」 「時代を先取りしすぎですな」 「苛めてみたくなってしまってぇ」 「行き当たりばったりだー」 「らしいのからしくないのか」 「らしいのだろうよ」 「ああそういえば母喰鳥先輩、さっき言ってた事ですけど。このまま打ち上げでもしようって腹です。ついでですよ」 「私様は帰るぞ」 「鳳凰様も出るってよー」 「なっ」 「喋鳥さんは出席だかンな」 「わ、私も出るからな! 寧ろ貴様らは帰れ!」 「打ち上げなのに!?」 「小生は少々疲れてしまいったので辞退したいところですな」 「そうなの?」 「ええ、寝不足ですので」 「それいつもやん!」 「椋鳥さんはー?」 「俺はどっちでもええけど……」 「打ち上げに当事者がいなくてどうするよ。空気読めねえなあ」 「でもそんなん関係ない……とはいかんか。んじゃ出席で」 「そもそも打ち上げで出席か否かとか考えてる時点で、如何にまとまりがないかわかるよねぇ」 「しょうがないと思うよ、真庭忍軍だから」 「それで解決しちゃうのが真庭の怖いところだね……」 真庭鳥組―― 任務、標的の暗殺。 途中変更、標的の暗殺偽装。 共に任務完了。 |