【真庭鳥組】




まっとうな人間ならば、決して出歩かないような時間の話である。
歩いている影が、七つあった。
当然まっとうな人間ではないのだが、例え真昼であったとしても、彼らはまっとうな人間には見えなかったに違いない。
寧ろこんな時間帯に歩いていてくれて有難うと言いたかった。
決して関わりたくはない種類の人間だと、一目でわかる。


てんでばらばらの格好をした、何もかも違う七人だったが、共通点が一つ。
袖を切り落とし、その代わりのように鎖が巻きつけられている、しのび装束。
みなまで言わずとも察してもらえよう、真庭忍軍である。
そしてこれは一見だけではわからないが――真庭椋鳥、真庭喋鳥、真庭野烏、真庭黒鳥、真庭夜鷹、真庭懸巣、真庭母喰鳥――真庭鳥組だったり、する。





「にしても――小生、一応ながら実戦を引いているのだが。これだけ人数がいるのならば、小生がいる必要がないのではないですかな」
「そーいうもんじゃねぇって、母喰鳥。この喋鳥さんが言ってんだから黙って聞いときゃいいじゃん?」
「俺も副頭領だから、普通は里にいないといけないんだけどな」
「別に良いだろう、どうせ副頭領は四人もいるのだからな。野烏一人抜けたところで」
「喋鳥はんも夜鷹はんも、今日はやけにやる気があるんやね」
「何でも鳳凰さんに、『今日の任務はとても大事な物だ。心してやってほしい』とかって激励されたらしーよ、椋鳥さん」
「うふふふ。流石よく慕われてますねぇ。僕としては任務などより、鳳凰サンの観察に勤しみたかったところ何だけどねぇ」
「したら殺すぜ、黒鳥」「したら殺すぞ、黒鳥」
「おお、怖い怖い。しかしお二人サンも如何ですかぁ? 何でしたら、鳳凰サンの行動表作って差し上げますよぉ」
「「………………」」
「おやおや、そんな葛藤しちゃってる顔しないでほしいなぁ。そんなにおかしいことじゃないんだからねぇ。椋鳥もよく蟷螂サンの場所を聞きに来ますよねぇ」
「そうそう、俺もよくお世話になっとって。黒鳥はんの情報力は世界一ィ……って何でやねん! そんな事実は一切ないわ! 原作者様・関係者様には一切関係あらへんわ!」
「椋鳥、そういう時代を先取りした発言はよくありませんぞ」
「私は椋鳥ではないのだ。鳳凰様の事は尊敬しているが、そのような破廉恥な真似は矜持が許さない」
「俺だってその辺はわきまえてるぜ? 一歩間違えれば……ってか既に変態っしょ」
「何で俺がやっとるみたいな流れなっとんねや!? 違う言うてるやろ!」
「それより任務の話しよーよ」
「懸巣はん!? それよりて!」
「相変わらず前フリが長いんだよね。懸巣君、よく話を戻してくれたね」
「私様が鳳凰様からの命を教えてやろう。ありがたく思え!」
「あ、やっぱ放置の方向なんや……」
「よく聞くのだ。今回の暗殺任務――」





まるで舞台役者のように堂々と、夜鷹は語り始めた。
語り始めたところで、停止した。





「うふふふ。夜鷹、どうしたんですかぁ?」
「任務について聞いていないのではないかと小生は推測しますな」
「えー? 聞いてないの、夜鷹さん」
「聞いてるわけねぇじゃん。俺だって聞いてねぇしっ」
「……聞いてないんだね」
「あー聞いてへんのや」
「うるさいぞ貴様ら!」



聞いてなかったらしい。
野烏は仕方が無さそうに頭をかくと、言葉を引き継いだ。



「今回の任務はただの暗殺だって聞いてるけど――夜鷹君。やっぱりさ、この人数で行くと逆に邪魔にならないかな」
「何でアンタは聞いてンだ?」
「副頭領だからではないのかな」
「わぁってるけどさ」
「邪魔になるって事もないかもしれませんよぉ。聞いた話だと、今回の標的はさるお方の血筋らしいじゃないですかぁ。跡目争いだか相続争いだかで、僕達を仕向けてるんでしょぉ? そんな凄い人なら、警備も固いかもしれませんよぉ」
「……確かにそれでいいんだけど、黒鳥君。何で君知ってるの」
「やですねぇ。僕が真庭黒鳥だからですよぉ」
「母喰鳥先輩、お願いします」
「うん? こんな所で小生の出番が来るとは思いませんでしたな」



母喰鳥は目隠しを外しかけると、黒鳥は慌てて手を振った。



「僕はただ偶然、鳳凰サンと白鷺サンが任務について喋ってるのを聞いただけですよぉ。怖いですから忍法『狂鳴感覚』使わないでくださいよぉ」
「貴様でも怖いなどと思うのだな、黒鳥」
「怖いですよぉ。だって未来まで見えちゃうじゃないですかぁ。僕がこれからどんなことをしでかすのか、怖くて怖くて」
「怖いってそっちかい!?」


何だか飽きた顔の喋鳥が言う。


「話戻そーぜ……って俺に言われ始めたら終りじゃねぇ? 魚組への道が開けてくるっての」
「結構失礼だよね、それ。まあいいけどー」
「まあいいんだ……まあいいか。確かに警備は固いかもしれないけど、俺たち、居たらいただけ邪魔になるじゃないか」




大人数で掛かると、互いを阻害し合ってしまう――それが真庭忍軍なのだ。
全員それはよく承知している。
そんな中、懸巣がのんびりと手を上げた。




「じゃあさ、何組かにわければで行けばいいんじゃない。先発後発とか」
「先発と後発って――どないなことやの、懸巣はん?」
「まず囮が行って、次に先発隊が行って、先発隊が失敗したら後発隊」
「失敗したらっつーのもやな言い方だぁな」
「ふむ。まあしかし、失敗を予想して動くのは悪いことではありませんからな」
「任務では万全を尽くすべきだからな」
「そうだね。どうせ一気にかかっても邪魔になるだけだし」



そして、その後の話合いの結果。
囮は懸巣が名乗りをあげ、やる気満々な喋鳥と夜鷹とが先発に立候補、後発の枠の奪い合いに負けた椋鳥が苦労役を任された。



囮  真庭懸巣、真庭椋鳥。
先発 真庭喋鳥、真庭夜鷹。
後発 真庭野烏、真庭母喰鳥、真庭黒鳥。





「俺、囮なんてやった事あらへんのやけど」
「だいじょーぶ。俺が慣れてるから」
「いざとなったら懸巣が全て負ってくれるであろうよ。被虐趣味だからな」
「おや、懸巣は被虐趣味なんですかぁ? 気が合いそうですよねぇ」
「あんまり怖いことしないようにね、黒鳥君」
「母喰鳥、景気づけに占いでもやってくンねぇの?」
「しても余り意味が無いと小生は思いますな。小生では、未来は見えても未来は変えられないですからな。悪い未来だと士気が下がる」
「なぁに言ってんだ?」


喋鳥は小馬鹿にしたように、にやりと笑った。


「いい未来しかねぇから、景気づけに占ってもらうんっしょ。決まってんじゃん」


「……自信があるのはいいことですな。驕りはよくないが」
「これは自信か? それとも驕りか?」



不遜な口調で聞いた夜鷹に、飄々と母喰鳥は答える。



「小生の目には、未来や過去の断片ぐらいしか、映りませんのでな」
「それだけでも結構凄いと思うんだけど……まあいいや。じゃあ懸巣君、椋鳥君、行ってきて――っていない!?」
「皆サンがじゃれてる間に行ってしまいましたよぉ」
「囮――何をするつもりなのですかな?」
「どうせ情報操作だろう」
「拷問だぁな。何か異常がありゃ椋鳥の方が伝えてくるだろーな」
「ま――いつも通りだよね」

→【真庭懸巣】